MasaichiYaguchi

クナシリのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

クナシリ(2019年製作の映画)
3.6
ロシアのウクライナ侵攻が国際的な問題になっているが、旧ソ連出身フランス在住のウラジーミル・コズロフ監督がロシア連邦保安庁の特別許可と国境警察の通行許可を得て撮影を敢行した、ロシアが実効支配する北方領土の国後島のドキュメンタリーからは、ロシア人島民の厳しい暮らしぶりや日本に対する本音が見えてくる。
戦後の1947年から48年にかけて、国後島から日本人の強制退去が行われ、日本政府は問題が解決するまで入域を行わないよう国民に要請している。
だから、ロシア人島民の暮らしぶりや荒涼とした風景を見ていると、そこが嘗て日本の領土だった国後島であるとは分からない。
それでも登場するロシア人島民たちが、第2次世界大戦の痕跡やそれ以前の遺物を土から掘り起こしながら語る日本人との思い出や、インサートされる写真、資料、風景から、確かに日本人が暮らしていたであろう名残りが感じられる。
「北方領土返還」と「平和条約」という言葉が映画の中で何度か出てくるが、国後島の“真実”が明かされた本作を観ると、それが実態から如何に乖離しているのかが分かって暗澹たる思いになる。
更に、日本とロシアの主張が膠着状態のまま政治に翻弄されてきた当事者たちの複雑な心境も垣間見えてくる。
そして今、現在進行形でロシアの侵攻を受けたウクライナでは町が破壊され、子どもを含めた民間人も犠牲者となり、多くの人々が母国を離れて近隣諸国へ避難せざるを得ない状況になっている。
このドキュメンタリーは、改めて国益の対立に巻き込まれた人々に思いを馳せる起爆剤のような作品だと思う。