atsushi

オッペンハイマーのatsushiのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
"最も個人的なことが、最もクリエイティブである"はマーティン・スコセッシの有名な言葉だが、今作は、最も個人的な事柄(嫉妬や妬み)と、世界を変える程の大きな事柄(人類史上の大発明)を対比することでそのクリエイティビティの絶大さを最大化しているように思う。核分裂(原爆)と核融合(水爆)。聴聞会と公聴会。モノクロとカラー。そのどれもがオッペンハイマーとストローズの対比として機能している。

息つく間も無い矢継ぎ早な編集。余白、間を徹底的に廃したとにかく時間密度の高い、濃縮された3時間を作り出したジェニファー・レイム。3時間絶え間なく流れるルドヴィグ・ゴーランソンの音楽の喧騒が心をかき乱してくる。容易にスペクタクルに消費されることのないIMAX65ミリの映像はホイテ・バン・ホイテマ。今年度アカデミー賞を席巻した立役者たちによる職人技が唸る。

冒頭、ギリシャ神話の神プロメテウスが言及され、毒リンゴの挿話が入る。物語の顛末を想起させる周到な導入。原作同様ノーランはオッペンハイマーという人物をプロメテウスになぞらえている。しかし、それだけでは無い気もする。2010年代以降、映像革新の最前線を走るノーラン。映像革新こそが"映画"自身を破滅させるかもしれないにも関わらず。そう思うと、ノーランはオッペンハイマーに自身を重ねている様にすら見える。

『メメント』、『インターステラー』、『TENET』。これまで事あるごとに時間というモチーフを扱ってきたノーランが、今回はその不可逆性を特に意識したように見える。時間の不可逆性とは即ち"映画"のことであり、それを踏まえるとノーラン史上最も映画と親和性の高い題材と言える。

被爆者の曽祖父を持つ私としては、どうにも色々と思うこともある。今私はこの映画のエンタメ的面白さと、この題材をエンタメに消費することへの異議とに心を引き裂かれている。けれども、その分立にこそこの映画の魅力を感じざるを得ない。

2024/03/25 1回目 Dolby cinema
【2024年105本目】

2024/03/31 2回目 IMAX レーザーGT
グランドシネマサンシャイン
atsushi

atsushi