三樹夫

オッペンハイマーの三樹夫のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.7
「原爆の父」と呼ばれるオッペンハイマーが、原爆を作るまで、原爆が広島と長崎に落とされて以降の苦悩、ストローズの恨みを買っての嫌がらせみたいな査問というのが大まかな流れだが、時系列はシャフルされているのとさも当然ご存知みたいに大量の人物が出てくるので(さすがにアインシュタインは分かるが)、最初はなんのこっちゃとなる。
なんでこんな作りなのかというと、この映画はオッペンハイマーの超主観的視点というか内面世界というかで、オッペンハイマー中心の世界であるし、ストーリー上は重要な恨みを買ってとんでもない嫌がらせしてくるストローズでさえも、オッペンハイマー世界の中におけるその他大勢ぐらいのものでしかない。そのためオッペンハイマーはストローズの恨みを買っていたことに全く気付いていないし、ストローズはストローズでオッペンハイマー世界にとってはモブみたいなもんでしかないと、ストローズのピエロ感が凄い。ストローズの謀略やソ連のスパイでエンタメ的な盛り上がりを見せそうだがそうでないのは、オッペンハイマーの主観的視点で描かれた映画だからだ。
こんなオッペンハイマー世界におそらく一番感情移入しているだろうはノーランで、観ていて『風立ちぬ』を想起する。『風立ちぬ』は飛行機の設計をアニメに代えれば主人公はまんま駿で、他人のことを描いているようにみせかけて自分のことを描いていたが、この映画も原爆を映画に代えれば主人公はノーランと思え、原爆を作るのが映画を作ることと重なる。

劇中一番でかい音が鳴り響くのが原爆投下後の歓喜にわく狂騒の講演のシーンで、観ていて喜び狂ってる観客に不快感を覚える。これは日本人だから不快感を覚えるのではなく、どこの国の人が観ても狂喜している観客の出す音がデカすぎて不快に思うような作りになっていると思う。どう考えても狂喜する観客を否定的に描写している。ストローズが仕込んだ検事のおっさんは分かりやすいぐらいに超絶ウザい。

わりかしノリノリで原爆を作るが、その後は良心の呵責に苛まれる。原爆作っても爆弾として使われなかったら良かったという心境もあるだろうが、軍事利用というのが分かってて研究に参加しているし、いくら表面上で否定しようとしても良心の呵責が生まれる。罪悪感を抱えるはオッペンハイマーだけでなく、他の科学者も何年も経ちオッペンハイマーが賞を受けた時自分も許されたような気持ちになる。罪悪感や良心の呵責が映画の中で、特に後半では結構大きな要素になっている。
三樹夫

三樹夫