脩

オッペンハイマーの脩のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
2024年大本命、待望の『オッペンハイマー』日本上陸!
グランドシネマサンシャインのフルIMAXにて鑑賞できました。関東にも1:43:1タイプで観られる映画館を作ってくれて本当にありがとうございます、としみじみ感謝の念に浸りました。

どちらかというと、バンバン派手にメディアに出まくるタイプではない大好きなキリアン・マーフィーの素晴らしさを、あますことなく180分間、これでもか!これでもか!というほどに見せつけてくれます。
ノーラン監督ご本人も、そう意識して制作されたのだろうということもパンフレットを読んでいくと想像できます。これはキリアン・マーフィーでなければ成し得なかった偉業であると。

歴史に名を残す天才というと、その分野以外の、例えば私生活であるとか、人間性においては残念な部分が目立つものですが、例に漏れずオッペンハイマーも時に冷徹に、悪意なく人を傷つけたり、見放したりしますが、本人的には人も物理も同じレベルで愛すべき対象だったのだろうと、キリアンが演じてくれたからこそ、目が離せない魅力的な人物に思えました。

天才学者からみた世界はこんなにも尊く、脆く、恐ろしいものなのか、才能豊かであることは本来素直に褒められるべきなのに、些細な行き違いや、人間的な未熟さ傲慢さゆえに歯車が狂ってしまう。
「地球を壊せる確率」を叩き出し、葛藤も描かれてはいるものの、最終的には「実際にどうなるのかこの目で見たい」という天才達の夢に邁進していく姿は、これが破壊兵器でなければ、どんなにか手放しで喜べたことでしょう。しかしこれが現実であり、彼らは成功するために情熱をもって挑みました。
そして天才達には、その先の選択権すら与えられず、「作った人」と「使う(ことを決めた)人」とで無情にも引き離されていきます。
ベネディクト・カンバーバッチ主演『イミテーション・ゲーム』を思い起こしました。https://filmarks.com/movies/57847
いわゆる戦争映画というよりは、その一歩手前で、自らの頭脳をもって戦っていた人たちが生き抜いた物語です。

実際の被害を直接的に描写せず、ラジオから流れてきた時に初めて知るあたり、すでに部外者にされていた様子や、オッペンハイマー自身は、実験が成功した当初は高揚感に包まれていたでしょうから、実験だけではなく実践の様子も出来るものならこの目で見たかった人だったと思えるのが、かえって恐ろしさを増していると感じました。
そして後日届いたフィルムからは目を逸らすのです。

ジーンとの関係も同じく、その時その瞬間は夢中になって、後先考えず行動し、悪い結果をもたらすことが予想できても、取り返しがつかなくなった時になって初めて狼狽する。人間の愚かさそのものです。
規模が違いすぎるだろ、というツッコミは置いておいて、悪い意味で共感出来てしまう幼さを持った人間でした。

戦争を知らない世代という無責任な理由ですが、史実に関してここで何か物申せる立場ではないと個人的に感じていますので、ひとつの映画として、また何度でも劇場に足を運んで観に行きたいと強く思える作品であることに間違いはないです。
脩