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オッペンハイマーのSEULLECINEMAのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
初クリストファー・ノーラン。
それぞれのシークェンスを放射状に結んでいく過程で作品の全体性に対する操作を無効にすると言う意味で、ノーランは政治的な監督なんだとは思う。
彼はショットに全く興味がないんだろうが、ショットを撮らないことを批判するのは古典的ハリウッドと表層批評に拘泥した見方であって、彼の現代性というのは一定の評価を得て然るべきだと感じる。

「広島、長崎の被害が描かれていない」というのはそうなんだけど、虐殺と表象不可能性の問題いうのはアラン・レネ、セルジュ・ダネー以来の大きな問題であって、それらに照らし合わせると、ここで広島や長崎の被害を直接表象しなかったのは大正解だと思う。むしろ直接描いていたらそれは『ゼロ地帯』以上に下品なクソ映画になっていたわけで、それこそ歴史の裁きを受けることになったと思う。

実際、集会のシーンの光の明滅と肌が剥がれるシークェンスは、加害者視点から原爆を描くという意味においては、現時点での最適解だと思う。

しかしながら、太陽や星や宇宙といったモティーフが散りばめられている中で、「理論科学によって宇宙の真理と素肌で触れ合ってしまったことの恐怖」みたいなものが描かれていないのが難点だと思った。

科学者の父が大昔に「おそらくオッペンハイマーが最も恐れたのは、人間が太陽と宇宙を手に入れるという最大の背教的行為だったじゃんないか」と言っていて、物理学が素肌で宇宙と触れ合ってしまう学問だからこそ、それによって人類が自壊することと宗教の関係をもう少し踏み込んで描いて欲しかった。

まあハリウッドの連中からすれば赤狩りの名誉回復というのは自身の歴史を清算する行為に他ならないわけで、その意味でアカデミー賞を獲ったんだとは俺なんかは思ってしまうが…

P.S.
しかしまあ、全員ほんとに似てるよなぁ…
オッペンハイマーやアインシュタインはもちろんだけど、エドワード・テラーの嫌らしい感じとか、エンリコ・フェルミの紳士的で頭のいい感じとか、ほんとに素晴らしいキャスティングだと思う。みんなそっくり。
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