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オッペンハイマーのtorumanのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
天才科学者ロバート・オッペンハイマー の複雑な人間性を、様々な手法で描き切った傑作。

基本軸は、カラーのオッペンハイマーの主観世界と、白黒のルイス・ストローズ目線の客観的世界で構築されています。

商業用IMAXの始祖ノーランの映像表現に釘付けになりました。

・オッペンハイマー の脳内世界がスクリーンの画角と共にパッと広がる高揚感
・観客の意識を向けさせるフル画角での人物のクローズアップ
・トリニティ実験の緊迫感と高さを感じる巨大な火柱と遅れてやってくる音の衝撃
・縦長の画角を効果的に使った白黒で奥行きを感じるクラシカル且つモダンな映像

スペクタクルな映像に効果を発揮してきたIMAXの新しい可能性を感じさせます。

この作品は人間オッペンハイマー を描く事がテーマです。

オッペンハイマー によって生み出された、世界を一変させる巨大な力と、それをどう使うか揺れ動く判断と、時代に翻弄される卑小な人間性。
このバランスの危うさを、オッペンハイマー をめぐる様々な対比(対立)を挟み込んで描かれていきます。

オッペンハイマー とストローズ
天才と凡才
原爆と水爆
無神経と自意識過剰
学問の興味と人類の脅威

今回の公開延期の一因にもなった、原爆は、この作品の主題ではありません。
オッペンハイマー は、広島・長崎の映像の惨状から目を背けてしまう為、ダイレクトな日本の状況の描写はありません。

しかし、前述のトリニティ実験や、同僚の前でスピーチをする場面での、踏み鳴らされる靴音〜自我の崩壊〜被爆していく聴衆のイメージは、原爆の恐ろしさと民衆の気持ちが操られる怖さが充分に伝わります。

この作品は、クラシカルな題材を最新鋭の映像・音響と繊細な編集で描ききった素晴らしい作品だと思いますが、引っ掛かる点もあります。

予習をしたほうが確実に楽しめる内容、「IMAXフィルム」ベースでの上映推奨等、観客に課す鑑賞条件が高くなり過ぎていると思います。

それでも映画でしか味わえない凄い体験を味わった事も事実。
私の気持ちも背反してしまいます。

意見の分かれるノーラン監督作品ではありますが、私の中では今年のベスト入りです。
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