かー

オッペンハイマーのかーのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.8
「慧眼にして盲目」

何気なく出てきたこの台詞が、映画の全てを表しているなと思った。
つまり、この世の全ては二律背反であるということ。
光は波であり粒子でもある。国益を損なう道義がある。仕事に邁進すれば家庭はおざなりになる。羨望の裏には嫉妬がある。発展を目指せば犠牲が生じる。
私たち人類はずっと、その矛盾に対処する方法がわからず、たくさんの過ちを犯し続けているのだと思う。現在進行形で。
オッペンハイマーという男の人生を通して、人間の愚かさ、どうしようもなさを強く認識させられるような作品。

反戦映画というよりも、伝記映画の印象が強い。人類史上最悪ともいえる一件の背景を、重要人物・オッペンハイマーの視点に立って一緒に体験していくような。

音響効果が凄まじく、おそろしく緊迫感のある世界に没入させられる場面が多々ある。何度も心臓が飛び出るかと思った。繊細なタイプの人は要注意かもしれない。シンプルに大きな音も鳴るし。

予習なしでも十分理解できる内容だと思う。深く考察するには足りないかもしれないが、芸術作品として観るなら一度で味わえる。

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個人的な話

・小3のとき、「ノーベル賞のノーベルは、実はダイナマイトの作者である」と知りパニックになったことがある。
それまで科学は魔法のようなものだと思っていた。伝記を読み漁り、将来は科学者になりたいとも思っていた。
でも違った。あまりにショックで、生きていくのが怖くなって、眠れなくなった。
数日後、全く関係のない作文にそのことを書き連ね、用紙の裏まで真っ黒にして、心配にした担任が親を呼び出したのを覚えている。廊下からチラッと不安そうな大人たちが見えて、「こんなこと書くもんじゃないよな」と理解し、その件は忘れることにした。
…あの時感じた感情を久しぶりに思い出した。この映画のおかげで、やっとあのときの気持ち悪さの正体がわかった気がする。

・曾祖父は太平洋戦争で亡くなっている。祖父母は幼い頃都市部で空襲に遭った。日本人としてはかなりイラっとくる描写がたくさんあった。でも、アメリカ人や他国の人から見るとまた違う感情が湧くのだろう。そのことを認識することに意味がある。日本人こそ観るべき映画だと思う。
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