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オッペンハイマーのpepeのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2
クリストファーノーランや作り手たちのメッセージが伝わるすごい映画だと思う。

■作品として秀逸
クリストファーノーラン作品なので、間違いなく面白いとは、鑑賞前から信頼していたけれど、
インセプションやテネットのような、空想の世界の中で自由に時空を操り、アクションも含めて魅せる映画ではなくて、
オッペンハイマーという現代史において、最も取り扱いが難しい人物の人生を史実に基づいて描き、それを面白くするというのは圧巻だった。
クリストファーノーランらしく、複数のストーリーが時系列を交差しながら展開して行くのは、とても引き込まれた。

■オッペンハイマーの描き方
オッペンハイマーを一人称として描くという試みは十分成功していると思う。この映画がオッペンハイマーの単純な批判でも、賞賛でもなく、かっこよくも、かっこ悪くも描かれていない絶妙なバランスを通じで、オッペンハイマー自身に感情を移入していく。

■内包されるテーマの深さと普遍性
人類は1度手にしたものを捨てられない。1度「進歩」してしまったらもう元にはもどれないということを突きつけられる。人類は有史以降至極自然に何かを発明、開発し(技術や、概念、システムなど形態は多岐にわたるけど)それを用いて生活をより豊かにすることを試みてきた。トルーマンが原爆を落とす命令をした人であれば、オッペンハイマーはそのつくる指揮をとった人。一方で原爆が落とされるまでには、膨大な数の前提となる技術や、理論、そしてそれを生まなくてはならなくなった社会通念が複雑に絡み合い、オッペンハイマーはあくまで原爆の製造の最後のピースをはめた1人なんだと思う。自分がその状況にいたら何ができたのか、そしていまこの世界で自分が何ができるか、それを考えるきっかけを押し付けがましくなくくれる作品だと思う。

■2023年に世に公開された意味
近年核兵器に対する危機感が落ちていると感じている。人類のジレンマとして、ヒロシマ、ナガサキ含め第一世代が居なくなってしまうと、その抑止が効かなくなってしまう。そして人類は同時に複数のものにフォーカスする事が出来ない。自分たちを滅ぼすかもしれない兵器に対しての関心を喚起したいメッセージが映画にはあった。

■商業映画としての挑戦と限界
これを商業映画としてヒットさせながら、クリストファーノーランの思惑通り若者に関心をもってもらうキッカケにするというチャレンジは見事成功したと言えるのではないなろうか。
一方で公開前のバービーとの絡みや、見てない人からのSNS上での批判を見ると、人々がインターネット上にある「刺激」に対して過剰に反応する時代に、このトピックを扱うことの難しさを感じざるをえない。

久しぶりに長々と書いてしまったが、総論としてすごい映画だった。オッペンハイマーのインタビューなど合わせて読んでほしい。
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