ShotaOkumura

オッペンハイマーのShotaOkumuraのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
ひとまずこれは言いたい。
IMAX最高…(泣)
予告編がひと通り終わって、音響がIMAX用に切り替わって「想像を超えた映像体験を…」みたいな映像が始まったときにうお〜!って興奮する感じ最高だよね。

それはさておき、内容ですが、やっぱりノーラン監督の映画、素直に面白い。
僕的に今のところの最高傑作はTENETに軍配が上がるかなと思うけれど、この映画もまた物理学マニアのノーランらしい知的な魅力に満ちた映画でした。
なによりノーランの良さは知的な内容と時間軸を組み替えたギミックもろもろよりも、効果音と音楽、カットとセリフのリズミカルな配置にあると個人的には思っています。とにかく始まりがあって終わりがあるという“人生の擬似的な体験”というようなものではなく、断片的なカットの羅列としての、映画でしかあり得ない体験を我々に与えようとしている気がします。

オッペンハイマーの伝記的なストーリーをここまでスリリングに描けるのは、やはりとてつもない才能かなと思います。
科学への野心と戦争と革命の“大きな物語”が科学者たちをトリニティ実験へと進ませていくそのスピード感は、日本人としてというより今あるこの世界で生きている未来人として、ちょっと待ってくれと言いたくなる。
その実験のシーンは正直めちゃくちゃ怖かった。なんてことをしてくれたんだ…と思わずにはいられなかった。
その後のオッペンハイマーが罪悪感と葛藤しながら転落していくシークエンスに関しては、どこまで史実や原作に忠実かはわからないけれど丁寧に彼への罪を払拭しようとしているかのようにも思えてしまった。

彼は本気で核の恐怖によってこの世から戦争が廃絶されると思っていただろうか、彼は揺れ動いていたし、どの科学者も理論が証明されることで宇宙の秘密が解き明かされることを夢見ているのである。ソ連やナチスドイツもまた同じように科学を進めていく以上、その脅威に対抗するには彼らよりももっと速く科学を進めなければならない。この科学的態度と戦争の相性の良さによってまさに今のこの世界を産んでしまったのである。
もはや核兵器はつくられ、水爆もつくられた。核弾頭もICBMもつくられ、ドローンによって遠隔で殺戮もできるようになった。そして戦争の脅威も終わることなく続いている。悪夢としか言いようがない。

アインシュタインの後悔も、オッペンハイマーの後悔も、完全に本物だっただろうと僕は思います。その姿はとてつもなく悲しく愚かで、人類全体の愚かさを象徴していました。その意味でこの映画はとても誠実だったと思うのです。
科学的態度は全てを解き明かそうとし、しかし一度解き明かされた神秘はもはや誰の目からも隠せず、たとえそれが人間を蝕み続ける悪魔のような存在だとしても、もう巻き戻すことはできないのです。
核分裂が連鎖反応的に起こる核爆弾は、まさにこうした科学的態度そのもので、「我々は研究をして爆弾を作ったけれど、その使用法に関しては責任が無い」と(自己矛盾的に)主張していたオッペンハイマーは、まるでナチスの凡庸な悪と呼ばれたアイヒマンを彷彿とさせました。

近代を作っていったこうした科学的態度に対して、我々人間はそれが本当に正しいのかよくよく考えていかなければいけないだろうと思います。

この映画をふまえたうえで、次回ノーランがどんな映画をつくるのか、期待したいと思います。
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