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オッペンハイマーのcinemaとロザンナのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.9


"プロメテウスは神々から火を盗み、人に与えたため永遠の拷問を受けた"

火は次へまた次へと燃え移る。
3時間の上映時間の中、スピード感ある画面展開に一度燃え移れば次々と燃え拡がり止まらなくなってしまう炎と世の中の流れを表しているようで、言い様のない不安と焦燥を感じさせられた。


その威力も、後の世界への影響も、予測出来ていて尚なぜ核爆弾を生み出したのか?

《原爆の父》と呼ばれ「およそ理解の出来ない人物」と考えていたが、人付き合いが下手だったり傲慢さはあれど、友を思い家族を思い、故郷を大事に思うなど、私達の考え及ぶことの出来ない人物ではなく、私達の中にいるひとりの人間なのだと思った。
核爆弾は実際には一人の人物が作ったのではなく、多くの科学者、協力者、時代背景により世に生み出されたが、その一人一人が私達と同じ人間なんだと、それを考えると神なんかではなく人間が世界を壊すのだなとより理解し恐ろしさを感じた。


◯鑑賞前に時代背景や量子力学について、完全にじゃなくともざっくりとでも知らないと【時系列シャッフル】【画面の撮り分け】【登場人物の多さ】という構成の複雑さでより混乱しやすくなる。

◯画面展開の見せ方以上に音の効果が本当に優れていて、不安感や脅威をより強く感じられ感情が揺さぶられた。
磁波を感知した時のようなバリバリというノイズ音が緊迫感と不穏さを与える。

◯「この人がこの役を?!!」と数場面しかない役に主役級の俳優がかなりの人数出演していて、俳優陣の核廃絶·反戦への関心を強く感じられた。

◯被爆や被害のシーンは直接的にはほぼ無いに等しく、あっても薄っぺらいホラーを見せられた様なディテールでほんのちょっと映るだけ。
逆にそれがオッペンハイマー視点としてはよりリアルだなと思えた。

どれだけ想像は出来ても本当の惨さはリアルに想像出来ない。それでも、自分以外が歓喜に沸き立ち揺れる中―――歓び叫ぶ声が、成功に強く互いを抱き締め涙する人が、祝盃に浮かれ過ぎて嘔吐する酔っ払いが―――遠く見えぬ地での悲鳴や惨状に見え、そう感じてしまう程の呵責を己以外に感知しない現状の絶望感。

「実際に使うまで恐れない」

製作者として、理論物理学者として、その脅威や影響を理解·予測していたオッペンハイマーも本当の意味で理解出来たのは爆破実験でその身で体感した後、実際に投下された後の世界の後だったのだろう。
そして周りはそれ以上に遅れて、また遅れてと漸く気付く。


《見聞きし予測し理解している》というのと《実際に経験し理解を得た》のとではかなり違うということが侭ある。
また、その知識を知っているのと知らないのとでは理解の深さが変わって、誤った見方や事態を軽んじたりする。
後悔は後からというけれど、起こった後ですら気付かないことの絶望程酷いことはない。


この映画で、原爆に関しての歴史や戦争についてあまりにも自分が知らないということに驚いた。
私達はもっと学んで知っていかないといけないし、いま存在する物事について·もしくは相手について理解し、何が最良であるかを考えて行かなければと感じた。
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