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オッペンハイマーのLullのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
文句のつけようがない作品。

台詞、視線、アイテム、シーン1つ1つが意味を持っていて観客の記憶力と注意力を試すかのような内容は相変わらず。
ノーマン作品は如何にずっと気を張り巡らせて視聴するかで体験に大きな差が出るはず。
靴売り、カウボーイ、ハイゼンベルグ、みかん、サンスクリット語などなど挙げればキリがない。

そして、お決まりの序盤に提示され、最後の最後まで引っ張られる謎。(2つの会議の目的とスローヴスについて)
今回はオッペンハイマーにアインシュタインは何を語ったのかという点。
警戒はしてたんですが見事に騙されました。
(書き下しの方がレビューっぽいかなと思っていたのですがコメントと本文で文末表現が変わるのなんだか滑稽だったので今回から丁寧語で統一します。)

登場人物も相変わらず魅力的な人物ばかり。
グローヴス少将やラビとの友情周りの描写が1番好きでした。
台詞で1番好きなのは軍服を着ているオッペンハイマーに対して科学者らしい格好をしろとラビが伝えるシーン。
その後のオッペンハイマーがカウボーイ然とした姿に着替えたところをじっくりで魅せるシーンと合わせてとても良いシーンです。


さて、ここからは色々とこうじゃないかな?気づいたこと。

・冒頭の毒林檎
これはおそらくアラン・チューリングが題材。
○○の父と呼ばれる人物であり、迫害される点でも似ていますね。

・T・S・エリオットの荒れ地
もちろんオッペンハイマーの勤勉さを象徴する以上の役割が存在するはず。
この詩は以下の5編からなる。
「死者の埋葬」→犠牲者
「チェスのゲーム」→戦争
「火の祈り」→火柱
「水のほとりの死」→アインシュタインとのシーン
「雷の言ったこと」→核爆弾実験のシーン
また言うまでもなく荒れ地とはロスアラモスのことであり、セックスの荒廃とその「創造性」のテーマ性についても、妊娠率の高さへ言及するシーンとオッペンハイマーたちが創った核爆弾

・ピカソの手を組んだ座る女
キュビズムと言われれば、視点を複数混在させて描く技法である。
これは本作のスワローズとオッペンハイマーの視点が入り乱れる構成のメタファーであると同時に、核爆弾への視点の違いのメタファーでもある気がした。

・ラビが渡したオレンジ
劇中で登場した装置、長崎型の装置は断面図が柑橘類に似ている。

・シーツを入れろ
これは誰でも気づいたかと思います。こういった少しカッコつけた表現はハリウッド映画ではよくありますが、原爆実験に成功したことは妻にさえ機密事項であったがために婉曲的に伝える必要があったことで、ちゃんと理由付けがされているのがあまりに綺麗だなと思いました。

・スピーチの内容
前半はどっちとも取れる内容になっていましたね。
落としたことの評価をするにはまだ早い…など。

・大統領と話すシーン
広島に落としたという大統領に長崎と付け加えたシーンは印象的だったかなと思います。
加えてこの時自分1人の成果ではないという主張に、オッペンハイマーが少しでも罪悪感を和らげたいという心理が働いていることが暗に示されているなと感じました。

さて、パッと思い出せるのはこんなところでしょうか。

実はオッペンハイマーを映画館で見た時、隣に外国の方たちが座っていました。
上映中にも話したりして日本の感覚からすればマナーが悪いなと感じてそれだけで文化の違いを感じたのですが、(もしかしたらその人たちが普通に他の国のものさしでもマナー悪いだけかもしれませんが)果たして彼らはオッペンハイマーをどんな視点で見ていたんでしょうか?
英語で喋っていたのでもしかするとアメリカ出身で日本に住んでいる方なのかも。
そう考えると中々に不思議な状況だったなぁと思います。
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