このレビューはネタバレを含みます
これをセミドキュメンタリーと呼んではいけないんじゃないか。少なくともそのカテゴリの中ではかなりフィクション寄りにも関わらず、本人を出してリアルに振ったり、そこにちょっと狡猾さしか感じなかった。
ラストの元同僚のおばさんのリアクションとか1000%創作なわけじゃん。
事件全体として見ればほとんどフィクションなのに、「とら男」の物語としてはほぼリアル、これを意図してやってるのか、雑に混同、観客を混乱させるやり口はどうなのか。
つまり、セミドキュメンタリーの「セミ」の使い方が都合良すぎて、実在の事件と本人を出してリアルなツラをして前半を進め、後半は考証を捨てて「いや〜セミなんでね、エンタメなんでね」に着地させるのはどうなんだい。
もちろん、本人の「演技」は悪くなかったし、その存在感、眼差しには感服なのだけど。
正直、このテーマを扱うにあたり、そんな中途半端な表現方法には「不誠実」という価値判断が働いてしまうので、どちらかに振って欲しかったのはある。実話ベースの劇画かリアルなドキュメンタリーか。
「とら男」説にしても、そこにロジックがあれば違った感想になるのに、全く描写されなくて、単なる勘と思い込みにしかみえなかった(もちろんご本人は丹念に組み立てて自著にまとめられていると思う)。
再現シーンをやるなら何時何分何秒にここでの目撃証言がある、とかやればいいのに、あえて入れなかったんですよね、表現者のプライドとして。事件を丁寧になぞる気もないし、解決させる気もないですよね。
そして映画の目的として、地元での誤った噂を正したかった云々を読んだ気がするけど、これを観ただけでは、
「AじゃなくてBだったらしいよ〜」
になる未来しか見えないのだけど、それでいいんですかね。