通りすがりのいがぐり

イニシェリン島の精霊の通りすがりのいがぐりのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.8
笑えない喧嘩のお話

人間の持った絶妙な優しさで包まれながら人々の記憶に残る終わり方を遂げたスリー・ビルボードのマーティン・マクドナー監督最新作は年齢的に後がなくなってきた男性2人のおかしな喧嘩のお話。というのが予告などで観た印象だったが実際は違う。この映画はとっても怖くて笑えない喧嘩の話だ。
ゴールデングローブの作品賞ミュージカル・コメディーを受賞も納得なおかしな会話の数々にクスッと笑えるは笑える。しかしその笑いの中にある見えてたはずなのに見えなかった毒が現れ始めてからこの映画の本性は顕になっていく。

不完全な人間模様と不親切さで溢れた人々とまさかすぎる"理由"と言動が混ざり合い生まれていく奇妙でヤバい状況の連続に驚かされ続けた挙句のあの結末。本当に怖かった。あんなに恐ろしい終わり方をするなんてなんと意地悪な映画なんだ。一体どんな感じなのかは観てもらう事前提で紹介すると、この映画は観終わった後に観客達に対して理解を求めようとしているところがある。「これはどう思う?」「あれはどうだった?」と言うように鑑賞後に勘繰るわせてこの恐ろしいドラマを長く引き摺らせようとする姿勢が功を奏していた。今でもかなり引きずってる。

面白おかしなドラマではなく「あんな事になってしまうのでは?」「こうなってしまうのでは?」と思ってしまう人間の恐怖心をとことん震え上がらせる至極のドラマ。これは確かにアカデミー賞有力候補と言われるのも納得だ。