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イニシェリン島の精霊のさのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
5.0
まるで宗教画を見ているような映像に、救われた気分です。

まず、古代から続くアニミズム的なものを、島の自然描写から感じました。それはどこかに土地の主(ぬし)がいるような、そして自分の魂もその場に漂っていて良いかのような、不思議な感覚でした。善い人間であらんことを説くキリスト教と、土着のケルトの信仰との間にある地層のようなものを感じ取り、調べるとそれはまさにアイルランドの歴史であることに驚き感動しました。また、けばけばしいものが一切排除された、暗さはあれど、厳かで静かな雰囲気に心が落ち着きました。

聖職者や警官も生身の人間であり、常に完全な善であり続けることは難しいと思います。絶対的だと思い込んでいる社会システムは、あくまでも人間が創り出した枠組みであり、意外と脆いものなのかもしれない、と感じハッとしました。

すべて自然の赴くままに、描き出される剥き出しの人間模様。それはまるで、自分が自然や動物と一体化し、島に存在することを許されたような癒しを感じました。人は魂の救いを何に求めるのか、無駄のない会話劇から浮き上がってくる登場人物たちの生き方に注目です。
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