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デリシュ!のmatsubのレビュー・感想・評価

デリシュ!(2021年製作の映画)
4.0
久々に映画館で綺麗な映像を目にいっぱい受けたいなあと思い見に行った作品です。
そういう目的の場合、とても満足できる作品でした。本作はフランス映画なのですが、映像は通して絵画的であり、宮殿風景というよりは印象派に描かれるような、自然や家庭に近い空間が取り上げられます。手に収まる土地、家具、自然との合理的な共存の中、元貴族付き料理人であったマンスロンの物語が進んでいくことになります。この料理の映像というのもとても魅力的で、食の想像力をかきたてるものなのですが、長くなりそうなのでストーリーの話に移りたいと思います。
本作の時代設定はフランス市民革命のほんの数年前ということもあり、フランス市民が自由を求める意思の萌芽と貴族社会が目指していたものが同時に描かれます。本作の登場人物は少なく、
* 主人公マンスロン
* 主人公の雇い主である公爵
* 主人公の息子
* 主人公の弟子である女性
が主に物語を進行します。公爵は貴族社会の秩序による食の芸術性を求め、マンスロンはそれを完璧に表現しながらも「庭の食材による料理の幸福」を求め、これらが対立することから物語が始まります。ここから登場人物の中にとても小さな革命が伝搬し、賢い息子は市民による食のビジネスを考え、過去のある弟子は食のプロセスの中で女性の人間性が否定される悪習を振り払い…さまざまな角度から、市民革命の際に起きたフランス市民の意識の変化をとてもとても繊細に表現しています。小さな変化、生きづらさに対する一市民としての弱々しい反抗心の表現に気付くとさらに楽しめるかと思います。
公式HPの監督インタビューで「フランスのアイデンティティを形作るものに焦点を当てたい」とありましたが、まさにこの絵画的美しさ、人の繊細さと強さを直感的に感じられる作品でした。

ちなみに同HPには本作の重要な料理である「デリシュ」のレシピも載っていますね。ぜひ食べてみたいと思いますが、フランス産の生トリュフなんて、映画の描写によると当時は忌避されるものだったらしいですが、今や手が出ないので困りましたね。
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