「暴力的」
本作をリアルタイムで遭遇できたことにただただ感謝したくなる。絶えず耳を襲ってくる音響と、目の前に広がる圧倒的な映像にこう思わざるをえなかった。暴力的ともいえるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の芸術的センスがこれ以上ない形で結実した映画だった。
「英雄譚」
本作のストーリーはいくらでもストレートな英雄譚として描けたはずだが、この作品はあからさまなヒーロー然とした物語にすることを避けている。作品の中で正義とされているものを一歩引いたところから何処か冷めた目線で眺めていくのだ。この構造により映画的なカタルシスが欠ける点は人によってマイナスの評価になるかもしれないが、自分はこれが逆にプラスに働き、作品に一層深みを増すことに成功していたと感じた。本作で描かれるストーリーは現実世界で正義というものが大きく揺らいでいる現状にまさに相応しく、世の中の複雑さが刻一刻と増す今だからこそ作らなければならない作品となっていた。