鹿shika

ウーマン・トーキング 私たちの選択の鹿shikaのレビュー・感想・評価

5.0
2005年-2009年にかけてボリビアで実際にあった事件を元に、架空の村を舞台に描く。連続で性被害に遭った村の女性達が、自分ら達や、子供達の未来のために、話し合いを重ねた2日間を描く。

ルーニー・マーラーの新作来たー!と思って、仕事で疲れてたけど見たのよ。
事前情報なしで見てたら、真剣に見るべき映画だと思って、しっかり前のめりで見た。

導入がキツすぎる。痣ができるまで乱暴する人間の人格が怖い。
さらに、被害に遭っても、女性達には選択もなくて。闘っても99%負けることになるし、逃げるても、これから出会う人達に、もっと酷い目に遭わされるかもしれない。と、どちらにせよ博打なのだ。
しかしここで、何事もなかったように男性を許してしまったら、今度被害に遭うのは自分の娘かもしれない。と言うどうすることもできない恐怖と怒り。

男性は何年もかけて、女性に作り話をし、暴行を繰り返してきた。
しかし女性は、男性が街へ行っているたったの2日間で、結論を出し、実行に移さなければならない。
この2日間を描いた104分なのだが、この映画は本当に、ほぼ会話で完結する。
会話劇なのに、飽きが来ず、役者達の気迫の効いた演技に魅了される。

“あなたはこれ以上、傷ついちゃいけない。
ーー何様? あんたたちもよ。私に選択肢があったと?
母さんも謝るわ。クラースからあんたや子供を守らなかった。
教えを守って、クラースを繰り返し赦し続けた。私の教えをね。ごめんなさい。ごめんなさい。”

母親越しのカメラでのこの会話のシーン、左から右にカメラが移動する。
どうか、この時の彼女の表情を見てほしい。それだけでいいぞ!
母親の背中を写し、彼女が一瞬だけ遮られる。ほんの一瞬だ。
次に写った時の、彼女の表情に心臓が震えた。
怒りによって感情が爆発し、母親からの謝罪によって、一瞬にして我に返る。
母親にそんな表情をさせてしまったことに対して、とても後悔しているような。
そしてまた、たった2秒ほどの短い時間で、今度は自分が言ったことへの意志の硬さ、母親としての強さを戻した。

そしてこれまた素晴らしいと思った演出をもう一個。
今回被害に遭い、妊娠した女性役を演じるルーニー・マーラーと姉を演じた、クレア・フォイの対比だ。

今回、この架空の村は、キリスト教を信仰しているという設定により、何度も”神様”や”赦す”などの単語がしばしば確認できる。
”赦す”ことが”善”か、”赦さない”ことが”悪”か。
ここで、彼女達は妹が”善”を唱え、姉が”悪”を唱えているのが分かる。
二人の真逆のセリフを書き出したから、見比べてみるがいい!!

姉:
“男の暴力から子供を守るのに なぜ赦しが要るの?
神が”愛の神”なら 私たちをお赦しになる。
”仕返しの神なら”女は神の生き写し。
”全能の神”ならなぜ私たちを守らなかったの?
私の子供を傷つける生物は、何であれ破壊してやる。八つ裂きにして、肉体を汚し、生き埋めにしてやる。
私を殺せと神に言うわ。我が子を悪から守るのが罪ならね。
悪を倒せば 他の女も救われる。私は地獄で永遠に焼かれてもいい。
他の男が、私の娘の体で欲望を満たすのを阻止できるなら。”

妹:
“自由は善よ 奴隷より良い。赦しは善よ 復讐よりいい。
道への希望は 故郷への憎しみよりいい。
何も分からない。愛のこと以外は。愛さえ不可解だわ。
確かなのは、家族が居る場所が我が家だってことだけ。
ーーーお腹の子も愛せる?乱暴されてできた子でしょ?
もう誰よりも愛してる。夕日みたいに無邪気で愛らしい。
あの男も元はそうだった。
ーーー赦しが復讐よりいいと言ったのは、残って男たちを赦せって言う意味?
矯正されて赦すことはできない。
でも、もしかしたら、距離を置くことで、この犯罪の本質が理解できるかも。
離れることで、男たちに同情し、赦せるかも。愛情さえ湧くかも。
闘わずに進む。進み 決して闘わない。
常に闘わずに 進み続ける。”

善と悪、赦せるか赦せないか、その話し合いに記録係として唯一参加していた、オーガストという青年。
この青年が最後に、女性達に意見する。そして真理を解く。
それは”善と悪”の問題でもなかった。これを男性の台詞にしたことに、脚本の技術を感じる。

妹と姉の言い分はどちらも正しいからこそ、この結末に着地したことに、作品としての上質さを感じる。
こういう映画が、自分の理解を柔らかくしてくれる。ずっとこういうことを考えて生きてたい。し、最近は考えられる人と知り合いたいと思うようになってきた。

とにかく、めちゃくちゃオーガストに顔が似てる私の知り合いは、頭が悪いので、きっとこの映画は好きではないだろうな。
だから「めっちゃ似てたよ」と報告したかったが、やめておく!笑

”赦しの誤用”よ。
ーーー悪い赦しなんてあるの?
”赦し”は時として、”許可”として混同されるかも。
鹿shika

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