けーはち

殺すなのけーはちのレビュー・感想・評価

殺すな(2021年製作の映画)
3.3
時代劇専門チャンネル制作。「橋」を舞台装置に据えた藤沢周平の短編集『橋ものがたり』所収の1篇「殺すな」が原作で、駆け落ちで結ばれてから時が過ぎ、倦怠期を迎えている柄本佑、安藤サクラの町人夫婦を、長屋の隣人であり不貞のかどで激昂し妻を斬ってしまった男やもめの老侍・中村梅雀が見守る人情劇。本作の「橋」は駆け落ち前後の境界線の象徴として存在しており、長屋で内職してコソコソ暮らす現状に倦んで元サヤに戻りたがる女、それを知っていて橋を渡ると殺すぞと束縛する男に、日々後悔を抱えて生きており「愛しているなら殺すな」と諭す老侍の言葉が全て。中村梅雀はさすがに何をやらせても達者だが、主演の二人の俳優がリアル夫婦で演技派、美男美女ではない人相の悪い夫婦だからこそリアリティがあり、また江戸の片隅の寂しくも端正な画も丁寧な人情劇。話は元サヤに戻るの戻らないので、時代劇らしい剣劇も何もないが、52分の中編で無理な膨らませもなく飽きる前に終わるし丁度良い小品。