どこか遠くへ行きたいと思わせる作品だった。旅することの、一度しか味わえない感じや、現実から離れていく感じ、何でも起こり得る感じが鮮やかに蘇った。
タイトルが秀逸だ。様々な場所が舞台となるが重要なのは>>続きを読む
己の出自に屈折した感情を持つ主人公が、父親探しを通じて、母親との関係を再構築する物語だった。怒れる息子という副題は端的で、彼は常に憤っている。
主人公は幾度もカメラを構える。ファインダー越しに自分は>>続きを読む
嫌な緊張を強いられる作品だった。家庭という安全地帯に赤の他人が侵入してくることや、両親という常識側の人間が彼を畏敬していることに背筋が寒くなる。
健太郎さんとは何者なのかという謎は中盤辺りで解き明か>>続きを読む
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原作既読。登場人物やエピソードが絞り込まれている。どちらかと言えば引いても足さない構成で、小説の持つ雰囲気を大切にしていることが伺い知れた。
自身の行動が利己的だったのではないかと嘆く浩輔と、それを>>続きを読む
民族や宗教の異なる生徒達が紡ぐ群像劇であった。タレンタイムに向けて、各々のストーリーが徐々に交わり、恋慕や融和などの要素が編み込まれていく。
登場人物が多く背景もそれぞれで、中盤までは物語がどこに着>>続きを読む
延命措置を敢えて行わない消極的な尊厳死の話題は時おり耳にする。だが積極的な安楽死はまだ遠い存在のように思う。
見送られる側の覚悟も、見送る側の葛藤もある中で、人生最後の日はどのようにして選ばれ、決め>>続きを読む
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肖像画の作者は誰なのか、描かれているのは誰なのか、署名がないのは何故なのかという謎がひとつひとつ解き明かされていく展開は見応えがあり、楽しめた。
最後にもう一度名画と関わりたいというオラヴィの心情は>>続きを読む
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地に伏したパードリックを助け起こしたり、ロバの死をあざ笑う保安官を殴り倒したりするコルムの姿に、彼の本心はどこにあるのだろうと考えてしまった。
狂気が伝染するかのように、パードリックはコルムへの激情>>続きを読む
エベレストの初登頂にマロリーは成功したのかを解き明かすミステリーだと思っていた。だが、実際は羽生の登山家としての足跡をたどるドラマであった。
そこに山があるからという名句が頭に浮かぶ。誰かが踏破して>>続きを読む
暗闇のなか映写機から発せられる光にサマイがそっと手を伸ばすシーンに目を奪われた。それは本当の意味での、彼と映画との邂逅の瞬間だったように見えた。
監督の身に起きた実話が元だという。一生かけて寄り添い>>続きを読む
男爵の娘に一目惚れしたハンスと、そのハンスに好意を抱くリーナの恋愛模様が物語を牽引する。そこに死者の日や疫病神などのエピソードが差し挟まれる。
民話や伝承の形をとった異国の怪奇譚が好きなので、満足度>>続きを読む
外見に惑わされたり、外聞に振り回されたりして、見過ごしている美しいものは想像以上に沢山あるのかも知れない。
崩れてしまった目玉焼きや、ナポリタン味のサンドイッチには、その象徴としての役割が与えられて>>続きを読む
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提示される情報が断片的で、全貌を把握することの難しい作品だったと感じる。
個人的には、因果応報という教訓を織り込んだ寓話に見えた。アダの母親を撃ち殺したマリアは、それが原因で報復を受け、イングヴァル>>続きを読む
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集合団地をゆっくりと降下する冒頭のショットが記憶に残った。最初はその意図が掴めなかったが、あれはカルロスの父親が見た最期の景色だったのだろう。
カルロスは異国の地で父親を失い、誠治というもう一人の父>>続きを読む
久遠チョコレートのバックヤードを映し出したドキュメンタリー作品だった。
全体の作業工程を細分化することや、各々の得意分野を連携させることなど、多様性のある職場を作るうえでのヒントがたくさん描かれてい>>続きを読む
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年越しから始まり、年越しで終わるという、冒頭に回帰する演出が素敵だった。
新しい家族を紹介し合うという終盤の展開が良い。在り方を変えながら、4人の友情や愛情は続く。40年というその歳月の重みが伝わっ>>続きを読む
望まぬ妊娠という重いテーマを扱った作品だった。舞台は1960年代のフランスで当時は法律で中絶が禁止されていた。
堕胎についての情報を図書館の書物から得ようとするシーンが印象に残った。頼れる者もおらず>>続きを読む
景勝地が映し出され、名産品が紹介されるなど、映画を観ているというよりは那須塩原のプロモーション動画を見ているような心境になる不思議な作品だった。
自分らしく生きるという内省的なテーマだが、展開はゆっ>>続きを読む
セクション毎に水墨画のタイトルカードが差し挟まれるところや、キックボードを始め各小道具が複数の役割を担っているところなど、演出が光っていた。
劇伴もシーンに合ったエモーショナルなものばかりで心地良い>>続きを読む
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原作既読。全体的にかなりの駆け足だったが、ほぼ小説に忠実な展開だった。
印象に残っている、「あれはない」や「善処する」等の台詞も、萌がこころを自宅に招く場面も、映画の中で音声や映像を伴い再現されてお>>続きを読む
生きることは何かと戦うことだと思う。それは世の理不尽さであったり、ボクシングの対戦相手であったりする。本作はケイコの戦いを描いたものだと感じた。
彼女にしかできない戦い方が、作品の魅力を裏打ちしてい>>続きを読む
主人公の名前を捩ったタイトルになっている辺り、無性愛者の生き辛さを描いたというよりは、蘇畑佳純の歩みを描いた作品として見た方が良いかも知れない。
誰もが何らかの属性を持つ中で、相手を属性ではなく、個>>続きを読む
役者と取り立て屋の邂逅を描いた作品だった。映像の色味によるものか、異国の情緒によるものか、幾度も苦しくなるほどの強烈なノスタルジーに襲われた。
ジャムセッションのシーンが好きだ。吟詠をするリン・フン>>続きを読む
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男性らしさが女性の目にどう映っているのかを描いた作品だったように感じる。
負傷した部位から察するに、登場する男性はジェフリーを含め、全てジェームズの投影なのだろう。彼らは時として粗野で配慮に欠け、幼>>続きを読む
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キャッチコピーから大方の内容は察することができた。その展開というよりは、幕の引き方に興味が湧いて鑑賞した。
主人公がダイアンに家族や仕事の話を聞かせるラストシーンには鳥肌が立った。自身が独り立ちして>>続きを読む
原作既読。台詞や設定に相当の改変が加えられていた。展開を追いやすくなった一方で、情念に裏打ちされた凄味は薄れたように思え、物足りなさを感じた。
映画では、瑠璃と三角は再会できるのかという点と、小山内>>続きを読む
劇中に登場する足のないマトリョーシカは隠れたキーアイテムだったと感じる。
入れ子構造となった人形のひとつひとつに、歴代の姉や妹の情念が込められているように思えた。最も外側にある、足のない人形はアン・>>続きを読む
小さな奇跡の連続でハリス夫人は夢に近付いていく。全てが偶然という訳ではない。奔放で行動力があり情に深い彼女だからこそ、運を味方にできたのだろう。
ファッションショーに加わるシーンとアトリエを訪れるシ>>続きを読む
一枚の絵画に人生を翻弄された青年の物語だった。作品に描かれている細い鎖に繋がれたゴシキヒワは、母親の死から脱却できずにいるテオの姿を思わせた。
当初は、テオが何故その絵にこだわり続けるのか分からず、>>続きを読む
有名店を訪れたという事実が何より重要な、料理を味わわず情報を食べる者達への復讐を描いた作品のように見えた。
そんなに最高の体験がしたいのならさせてやるとばかりに供される数々のもてなしは、ブラックユー>>続きを読む
シャイニングがサイコスリラーだったのに対して続編のドクター・スリープはサイキックホラーだった。大胆な路線変更に戸惑ったが、時間を忘れて楽しめた。
オーバールック・ホテルを再登場させる演出が憎い。ダ>>続きを読む
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先の震災から10年近くが経過した。生々しさは和らいだものの、風化まではしていないこの頃合いだからこそ、観る者に訴えかけてくる作品だったと感じる。
鍵を開け閉めするシーンが多い。そこには、再会や決別で>>続きを読む
同質であることが求められ、エディはそれに答えようと苦悩し続ける。映し出されるアイルランドの荒涼とした大地は、逃げ場のない彼の心象風景を思わせた。
片や、アンバーは異質であることを受容し、人生をものに>>続きを読む
AIロボットのヤンが機能を停止し、その不在が描かれる。退場はしたものの、代わって彼のメモリに残された映像が物語を牽引していく展開に面白さを感じた。
終わりが無であっても気にしないとヤンは話すが、誰か>>続きを読む
認知症と共に生きる当事者の目に世界がどのように映っているのかをユニークな手法で再現した追体験型の作品だった。
確かに見聞きしたはずの情報が容易に覆される。行動を起こすために何を信じればいいのか分から>>続きを読む
職場で発生したタイムループから抜け出そうとする変則的なお仕事映画だった。
タイムループを終わらせることが部署全体のプロジェクト化していくところが面白い。レポートラインを守らないと話が進展しない演出に>>続きを読む