2人が再び〈部屋〉を訪れるラストシーンが記憶に残った。入り口から動かないママと、洗面台や天窓にまで別れを告げるジャックの対比に胸が苦しくなる。
〈部屋〉に帰りたいという提案をママが拒否しなかったのは>>続きを読む
自閉症者の心の中をMVで表現するという手法に、ある種の新鮮さを感じた。
ミュージックの内面世界に流れる音楽や映像は饒舌だ。外界で得た情報がさり気なく再構築されており、彼女の心の在り様を探る手がかりと>>続きを読む
完成度の高い作品だと感じる。高校2年生という、身も心も大人になりかけの多感な年代を取り上げる所が巧い。他者との違いを殊更に意識してしまう時期だ。
登場人物の誰もがどこか不器用で、この状況を持て余して>>続きを読む
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ドロップが去り、残されたロウマ達が秘密基地の残骸に火を放つシーンが印象的だった。もはや誰が欠けてもドン・グリーズではいられなかったのだと思う。
惜しむらくは、作中でロウマとドロップの出会いが描かれて>>続きを読む
静かな映画だった。台詞と台詞の間に横たわる沈黙が心地いい。昭和初期のノスタルジックな雰囲気も、漫画に描かれる世界の凜とした空気も素敵だった。
この作品の真骨頂は、冬枯れの大地を映し出すラストショット>>続きを読む
時として、記憶はさらなる記憶を呼び起こす。葉が照生の姿を目にしたことをきっかけに、同じ7月26日を1年ずつ遡ってゆく展開に、構成の妙を感じた。
過去が美化され過ぎていないところに好感が持てる。ちょっ>>続きを読む
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オフェリアが倒れ伏す終盤の映像が、作品の冒頭に逆再生で挿入されている。
落命の度に彼女の時間が巻き戻っていると受け取ることもでき、全ては彼女が死の間際に見た幻想だったと受け取ることもでき、そこには解>>続きを読む
原作は日本医療小説大賞を受賞している。医療映画としての面白さを期待していたが、実体はヴァンがユナと出会い父性に目覚めるという家族映画だった。
肩透かしを食らった気もしたが、長編小説の映画化ゆえ、全て>>続きを読む
オリヴァーとの離別に沈むエリオに父親が助言を与えるシーンも良かったし、暖炉の前で膝を抱えるエリオに母親がそっと声をかけるシーンも良かった。
息子を静かに見守る聡明で鷹揚な両親と、その両親に信頼を寄せ>>続きを読む
聾唖者の家族の中で唯一の健聴者であるルビーは、ロッシ家という集団の中ではマイノリティに属する。時には疎外感に苛まれることがあったかも知れない。
そう考えると、ルビーが歌うことを通じて自分の世界を広げ>>続きを読む
水上分校という言葉に惹かれて鑑賞した。水辺の景色は長閑で時間を忘れる。
2人が心を通わせるギミックとして、電話でもSNSでもなく、日記というアナログなアイテムを登場させるところに趣を感じた。手書きの>>続きを読む
掲載写真のごとき一枚絵が映し出されたり、カートゥーン調のパートが挿入されたりと、まるで寝っ転がって雑誌をぱらぱら捲っているような気分になる。
とにかく情報量が多い。字幕を追っていると肝心の映像にまで>>続きを読む
野生動物とどのラインで共存していくのかという難解な問題に対して、ひとつのユニークな解答を見せられた気がした。実話がベースということに驚かされる。
雁の世話を通してトマの成長が描かれているのも良かった>>続きを読む
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終盤の卓球ラリーで娘の呟く「やっと見つけた」という台詞が印象的だった。
彼女が本当に探していたのは、父親を変質させてしまったもの、つまりは彼の背負う業だったのかも知れない。これは娘が父親を理解する物>>続きを読む
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これが無くてももう大丈夫だからと、2人で婚姻届を破り捨てるシーンが良い。
マジョリティに属する人々が当然のように享受しているものは無数にある。それらはマイノリティの目を通して初めて浮かび上がる。その>>続きを読む
グッチ家による同族経営の終焉を描いた作品だった。長編で見応えがある。
パトリツィアがグッチ家の一員となり、次第にその本性を露わにしていく様に、彼女もまたブランドの魔力に人生を狂わされた被害者だという>>続きを読む
パターソンのテーマが街と詩なら、コロンバスのテーマは街と建築と言える。対称性を意識した建造物の映し方は隙がなく、どの被写体にも存在感があった。
対称性がキーワードなのか、父親と反りが合わず街を離れた>>続きを読む
コメディタッチで描かれた作品だ。その対比のせいか、母娘で酒を酌み交わすシーンや母親の愛情を再体験するシーンなど、シリアスな見せ場が際立っていた。
娘が健康で幸せならそれでいいと語る母親の言葉が胸に刺>>続きを読む
劇伴がよかった。主張し過ぎず、登場人物の胸中に寄り添うような楽曲が多い。特に老人ホームと夜行バスのシーンに使用されたそれは切なくも美しかった。
どこへ行っても同じだと、動くことを諦めた人々に捧げられ>>続きを読む
明け方に太陽へ向かって、昇ってくるなと叫ぶシーンが印象に残った。モラトリアムの期間がいつまでも続いて欲しいという気持ちには、身に覚えがある。
学生から社会人への遷移において、得るものと失うもの、どち>>続きを読む
身体に不自由さを抱える男性と、精神に困難さを持つ女性が、互いに相補的な関係になるまでを描いた作品だった。
テーマは心と体の同期だろうか。心が体に、または体が心に追いつかない登場人物の姿に、終始もどか>>続きを読む
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自殺未遂をした青年が、自死した同級生の家族との関わりを通して生き直す物語だと思えた。ミュージカルの映画化であるためか、挿入歌が多く耳に心地良い。
印象に残ったのは、エヴァンがコナーのことを理解しよう>>続きを読む
孤独への耐性の高さや、孤独に対する向き合い方は人によって異なる。
デルのように孤独を愛して淡々と弔いの日々を送る者もいれば、その一方でグレースのように感情を抑制して孤独から目を逸らそうとする者もいる>>続きを読む
前半のオーディションのシーンでは脇役が主役のように描かれ、後半の撮影のシーンでは主役が脇役のように描かれていた。騙し絵という言葉が頭に浮かぶ。
終盤に一瞬だけ挿入される、ポストに寄りかかる方子の姿が>>続きを読む
浮力を意味するボヤンシーという言葉をタイトルに据えた理由を考えていた。
チャクラは絶望的な環境に身を落とす。彼の中には重力のような諦めの感情と、それに抗おうとする、浮力のごとき生還への意志が混在して>>続きを読む
発生する偶然と、それが誘起する想像力についての3話構成の会話劇だった。
会話の運びが緻密である。第2話で顕著だったが、両者の会話が隙なく嚙み合い物語を紡ぎ出していく様は、美しい数式を見せられているか>>続きを読む
孤独に慣れることは悲しみよりもっと悲しいことという台詞が心の中に残った。
同じ屋根の下に暮らしていてなお、Kとクリームは互いに本心を伝えられず、返って距離ができてしまう。そんな両者の姿は出会う前より>>続きを読む
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エロイーズの眼を介して見た60年代のソーホーは、時に幻惑的で美しく、時に退廃的で危うかった。サンディはその片隅でもがき続けた1人として描かれる。
終盤に物語は急展開を迎える。激しく燃え盛る炎の中に佇>>続きを読む
2分の時差で繋がる2台のテレビという設定からして既に面白い。それらを鏡合わせにすることで、ドロステレビを作るシーンには思わず唸ってしまった。
小道具を多用するところや、場面転換がはっきりしているとこ>>続きを読む
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愛に見返りを求めた者たちの末路を描いた作品だと受け取った。
相手を愛するとき、自分も同じように愛されたいという欲求は誰にでもある。不幸にもそれが叶わぬとき、ある者は崖からその身を投げ、ある者は対象が>>続きを読む
題名に留まらず、心象風景に至るまで、比喩の美しさを堪能できる作品だった。
外村がピアノの音に故郷の森を幻視するシーンでは、その度に不思議な感情が胸に押し寄せた。思うにそれは、自身の中に原初の風景を持>>続きを読む
登場人物が多く、各話は瞬く間に切り替わっていく。だが制御された複雑さであるため、置き去りにされることなく作品に没入でき、むしろ心地よさを覚えた。
ラブの名を冠しているが、愛というよりは承認についての>>続きを読む
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「自分のものは、自分で守れ」。大切なものを奪われた作家の復讐劇だった。
伏線の回収が見事だと感じる。特に、冒頭の炎に包まれた書店の由来が最後に明かされたとき、背筋がぞくりとした。
劇中では様々な引>>続きを読む
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同じ牛皮からフィルはロープを作り、先住民は手袋を作った。
前者は相手を捕縛して無力化し、後者は自身を保護するものだ。ピーターはロープを受け取り、ローズは手袋を受け取るが、どちらもこれからその身に起こ>>続きを読む
作品のテーマは、生の許容と死の受容だろうか。4人が抱える各々の葛藤を描写するのに40分という時間は短く、登場人物に感情移入することは難しかった。
特筆すべきは映像の美しさだ。薄暮のなか時間が止まって>>続きを読む
山田家と里村家の間に少しずつ交流が生まれていく様に見入ってしまった。路地に張り出した梅の枝ぶりを、三者三様に避けて進むシーンも面白い。
あの枝は障害の暗喩のように思われた。イレギュラーな存在だが、そ>>続きを読む