踊る猫さんの映画レビュー・感想・評価 - 4ページ目

踊る猫

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乱れる(1964年製作の映画)

4.6

成瀬巳喜男だから、つまり評価の定まった巨匠の作品だからという安直な理由で観たのだけれど、これはなかなか素晴らしい映画だと思った。もちろん義理の姉と弟の禁断の愛を、しかし下品なセンセーショナリズムを排し>>続きを読む

40歳の解釈: ラダの場合(2020年製作の映画)

3.5

よく言えばリアリティがある。生々しいとも言える。これはフェイクではない、ナマの主張が込められていると言える。それ故にレアである、とも。だが悪く言えば、これは到底ウェルメイドとは言い難い。観ていて苦痛に>>続きを読む

チア・アップ!(2019年製作の映画)

4.3

小粒な映画だ。スケールが小さい、とも言える。でもそれがいい。もうとうにチアをやるには老いすぎたシニアの女性たちがそれでも諦めきれず、なら今からでもとチアを始める話なのだけれど、老いのリアルな描き込みが>>続きを読む

彼女の人生は間違いじゃない(2017年製作の映画)

4.0

事務的に言ってしまえば、説明不足なところは否めないと思う。震災の爪痕の生々しいいわき市とデリヘル嬢たちが働く東京を舞台に展開する話なのだけれど、「なぜ登場人物がデリヘル嬢になったのか?」「なぜ彼女の父>>続きを読む

旅のおわり世界のはじまり(2019年製作の映画)

4.2

前田敦子と仕事をするようになったからなのか、それとも元々そうした資質の持ち主だったからなのか、それはわからないのだけれど黒沢清はますます閉じられた空間から「外」に出ようとする人々を描こうとしているかの>>続きを読む

ハニーボーイ(2019年製作の映画)

3.5

リアルな映画だと思った。生々しくて目が離せなかった。ストーリー的にはありがちな父と子の確執と和解が描かれていて、予定調和的に進むしオチもまあ予想通りのものとなるのだけれど、そこを細部を凝らしケレン味を>>続きを読む

HURRY GO ROUND(2018年製作の映画)

3.8

意外とこれは食わせ者かもしれない、と書くと失礼だろうか。しかしこの映画の矢本悠馬は「っすね」調の言葉遣いを隠そうともせず、まるで有名なミュージシャンの聖地巡礼にミーハーに挑むかのような「軽さ」を見せて>>続きを読む

ミッドサマー(2019年製作の映画)

3.7

いつもながらスットコドッコイな私なので、観ながらジョーダン・ピールの作品を連想した。問題のある喩えになるが、頭の中のOSが違っていて「対話」が通じない人との絶望的な断絶を描き、でも彼らととりあえずは共>>続きを読む

コロンバス(2017年製作の映画)

3.9

小津安二郎にオマージュを捧げて撮られたとのことだが、私が天の邪鬼なだけなのか小津的という印象はさほど感じなかった。皆無とは言わないにしろ、この監督の見ている世界はむしろ黒沢清から邪気を抜いたようだと思>>続きを読む

アンカット・ダイヤモンド(2019年製作の映画)

3.6

タイトルをもじって言えば、この映画は原石のような迫力がある。「カット」されていないが故に形は整っていないけれど、その歪さ故にこちらを虜にするなにか、得体のしれない(魔性の、と言ってもいいかもしれない)>>続きを読む

スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ(2018年製作の映画)

4.5

ステージを終えたあとのブルース・スプリングスティーンに、若い世代のひとりの観衆が固い握手を求め、彼に向かって熱心に語りかけているところがひときわ印象的だった。世代を越えて愛されるボス……私は実を言うと>>続きを読む

レイニーデイ・イン・ニューヨーク(2019年製作の映画)

4.3

カフカだな、と思ってしまった。いや、もちろん悪夢が展開されるわけではない。常に「想定外」な出来事が起こりまくりそれに翻弄されっ放しの男女が描かれるところが似ているな、と思っただけなのだが……終始ノスタ>>続きを読む

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー(2019年製作の映画)

4.7

この痛さはどうだろう。いや、否定的なことを書きたいのではない。テーマとしては優等生が殻を破って楽しむという、切実であると同時に笑える一大決心を描いたものだと言える。しかしそこにポリティカル・コレクトネ>>続きを読む

王立宇宙軍 オネアミスの翼(1987年製作の映画)

4.2

フレッシュな映画だと思った。私はアニメに詳しくないのでアニメ史からこの映画を語ることはできないが、そんな私でもこの映画が単なるアニメに留まらない(もちろん、アニメの豊穣な歴史から学んだ集大成がこの映画>>続きを読む

Giving Voice(原題)(2020年製作の映画)

3.2

もちろん下らない内容のドキュメンタリーではないのだが……こちら側がオーガスト・ウィルソンについて知らなかったことがまずかったのかな、と思う。それは黒人が自分を表現するという、この映画のキモとなる要素に>>続きを読む

Mank/マンク(2020年製作の映画)

4.2

あまり前のめりになって観ることができなかった。ノスタルジックな題材を扱っていながら決して後ろ向きに主張を運ばせないところは流石だと思う(例えばこの映画に登場するリベラルと保守の対立や、フェイクニュース>>続きを読む

ラスト・クリスマス(2019年製作の映画)

4.5

語弊のある言い方をすれば、別段頭を空っぽにして楽しんでもいいストーリーである。イヤミではない。ラブコメとして観れば二転三転のツイストの効いた展開が気が利いていて、真相も実にチャーミングだ。その意味では>>続きを読む

これからの人生(2020年製作の映画)

3.7

手堅いアプローチで魅せる、小粒な映画だと思った。それでいてピリッと辛い。表面には浮かび上がってこない要素をどう読むかがキモとなろう。ホロコーストの惨劇の記憶、生きづらさを抱えるトランスジェンダーの人物>>続きを読む

幸せな男、ペア(2018年製作の映画)

3.6

真っ当と言うか骨太のビルドゥングス・ロマンである。悪く言えば色気がない。ビレ・アウグストの映画は(意識して観てきたわけではないが)どれも渋く、ややもするとそのとっつきにくさで観客から敬遠される危険があ>>続きを読む

コネチカットにさよならを(2018年製作の映画)

3.5

ミニマリズムだな、と思った。なんてことのない中年男の悲哀を、飾らず気取らず描き切る。あまりにもメリハリのない展開がきつかったが、しかし描かんとしているものは伝わってきた。それまでルーティングの中に組み>>続きを読む

ホワイト・ボイス(2018年製作の映画)

3.7

「なんのこっちゃ?」と猫騙しを食らったような気持ちになった。想像力ということで言えば近年のジョーダン・ピール『アス』を連想させるところがあるし、もしくはテリー・ギリアムの悪ふざけにも似ているとも思う。>>続きを読む

バリー(2016年製作の映画)

3.6

バラク・オバマの若かりし頃を描いた映画ということで、もっと政治的/ポリティカルなメッセージを露骨に出したものかと思ったが中身は静謐で上品な青春だった。彼が黒人として背負わなければならない葛藤も(白人の>>続きを読む

シカゴ7裁判(2020年製作の映画)

4.3

民事でもなく刑事でもなく、政治を問う裁判。これはかなり珍しいし、語弊のある言い方になるが「美味しい」題材となろう。実際にこの映画でもかなりスリリングに丁々発止の法廷劇のやり取りと、ベトナム戦争に揺れる>>続きを読む

i-新聞記者ドキュメント-(2019年製作の映画)

3.8

一見すると「わかりにくい」、難しい映画のように捉えられるかもしれない。だがそれは政治を真っ向から描いているから、ということではない。全ての森達也のドキュメンタリーやエッセイに触れてきたわけではないので>>続きを読む

万事快調(1972年製作の映画)

4.6

単に私の育ちか頭が悪いということだと思うのだけれど、コントに似ていると思った。というよりはコメディだ。もちろん5月革命などのバックボーンを知らないと少し難解に感じられるところはあるかもしれない。だが、>>続きを読む

ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-(2020年製作の映画)

3.6

瑞々しい場面や俳優陣の演技は確かにこちらを惹き込む力を備えており、決して駄作だとは思わない。だが、ストーリー的にはアメリカン・ドリームならぬアメリカン・ナイトメアというか、ホワイト・トラッシュの人々が>>続きを読む

麦秋(1951年製作の映画)

4.1

一見すると単なる「もう若くない女性が結婚を決意するまでの話」でしかない、つまり映画にする価値もないようなありふれた話なのだけれどそれがここまで胸を打つのはどうしてなのだろう。多分それはこの映画が重層的>>続きを読む

スクリーンで観る高座・シネマ落語&ドキュメンタリー「映画 立川談志」(2012年製作の映画)

3.7

立川談志の落語は難解だ、という説があるらしい。私は談志の落語は全然知らなかったので大いに勉強させてもらったし楽しませてももらったのだけれど、難解というより筒井康隆の作品に通じるようなリリカル&センチメ>>続きを読む

愛なき森で叫べ(2019年製作の映画)

4.8

点数は高くなるが、これはひとえに俳優陣の演技によるところが大きい(実はパワーだけで押し切っている、という気もするが……)。1995年を舞台にしているところ、監督の時代を見抜く批評性を感じる。言うまでも>>続きを読む

さようなら(2015年製作の映画)

3.7

深田晃司監督は芸達者なのか器用貧乏なのか。この映画でも深田ワールドではお馴染みとなった僻地の風景が登場し、今作ではタルコフスキーや黒沢清にも似た終末の風景が繰り広げられて、先人たちの世界をリスペクトし>>続きを読む

ノー・ディスタンス・レフト・トゥ・ラン 〜ア・フィルム・アバウト・ブラー~(2010年製作の映画)

3.9

こうやって観てみると、ブラーはその器用さ故に誤解され続けてきたバンドだったのかもしれないな、と思わされた。90年代初め頃にマンチェスター・ムーヴメントとシューゲイザーを意識したバンドとして現れ、そこか>>続きを読む

フラクチャード(2019年製作の映画)

4.5

やはりブラッド・アンダーソンは、狂っている人が抱く不安定な現実感覚を描くのが巧い。この映画でも、「あらかじめネタが割れた状態で手品を見せる」という(つまり、観衆に全く驚きをもたらさないスリラーを語ると>>続きを読む

華氏 119(2018年製作の映画)

4.6

観終えて思った。マイケル・ムーアの絶望は私が思っている以上に凄まじいのではないかと。それは裏返せば、彼が持つ希望はそんな絶望を踏まえても決してペシミズムやシニシズムに打ちのめされてしまうような、甘っち>>続きを読む

台北の朝、僕は恋をする(2009年製作の映画)

4.0

なんてことはないただの他愛のないラブコメである。例えばウォン・カーウァイ『恋する惑星』など、私が観た範囲でもこういった映画はズラズラと思い浮かぶ。だが、大都市の夜といえば何処か退廃した匂いが漂うところ>>続きを読む

我が美しき壊れた脳(2014年製作の映画)

3.9

惜しいな、と思う。材料はいい。突然脳卒中により倒れてしまった女性が、回復するまでのトライアル(当然、挫折も数え切れないほど味わう)を綴ったもの。生々しい迫力はある。しかし、彼女が思慕を寄せるデヴィッド>>続きを読む

Ryuichi Sakamoto: CODA(2017年製作の映画)

4.1

当たり前だが、どんな人生にも「Coda(終結部)」はある。このドキュメンタリーから伺えるのはそんな自身に訪れる「Coda」を虚心に見つめ続ける男の姿である。そして、かつてはYMOや映画音楽(戦メリやベ>>続きを読む