pherimさんの映画レビュー・感想・評価 - 49ページ目

第三夫人と髪飾り(2018年製作の映画)

3.8

19世紀ベトナム。絹の里の富豪へ嫁いだ14歳少女の目に映る、底知れない性の奥行き。米国育ちの新鋭女性監督がつむぐ曾祖母の物語を引き立てる、渓谷の絶景と女優陣の穏やかなる凄艶美。トラン・アン・ユンの美術>>続きを読む

英雄は嘘がお好き(2018年製作の映画)

3.3

19世紀ブルゴーニュ舞台のロマン主義コメディ。戦地から婚約者が還らず失意する妹を見かねて嘘の返事を書きだす姉と、落ちぶれて生還しちゃった婚約者が巻き起こす喜怒哀楽。衣装や小道具眼福かつ、ナポレオン大陸>>続きを読む

ホームステイ ボクと僕の100日間(2018年製作の映画)

3.5

森絵都『カラフル』の、ロイクラトン他タイ演出が楽しい映画化作。BNK48チャープランをヒロインに迎えたキレッキレな画作りに『バッド・ジーニアス』を感じたら同じGDH559製作で、GTH継ぎ韓流脇目にア>>続きを読む

キューブリックに愛された男(2016年製作の映画)

3.1

かつてF1レーサーを夢見たイタリア移民の男が、キューブリックの専属運転手となり老境へ至る。勤め上げ、故郷で余生暮らしを決め込むまで監督作を観たことがないという回想に、この徹底した庶民肌こそ愛されたのだ>>続きを読む

天気の子(2019年製作の映画)

4.0

東京の地べたを今日も這いずり回る人々の上空を、少年少女がイルカのように泳ぎ回る爽快さ。新海誠十八番の新宿キレイキレイの術が池袋・神楽坂上や田端にまで降り注ぎ、築地・月島などもチラ見せ眼福。『君の名は。>>続きを読む

エセルとアーネスト ふたりの物語(2016年製作の映画)

4.2

牛乳配達の青年によるメイドへの求婚から始まる、『風が吹くとき』の絵本作家レイモンド・ブリッグズが描く両親の物語。ロンドンの労働者住宅の暮らしは貧しいながらも愛に溢れ、戦間期やナチス空襲下の精密な生活再>>続きを読む

ゴッホとヘレーネの森 クレラー・ミュラー美術館の至宝(2018年製作の映画)

2.4

その無名期からゴッホに着目した女性コレクターに焦点化しつつも、ゴッホタッチの進化解説が独特な一編。西洋美術物は従来、いかに4Kや3Dで気張ろうと根本が退屈な教養番組構成のため冗長さを常とした点、本作は>>続きを読む

あなたの名前を呼べたなら(2018年製作の映画)

4.8

カーストを超える恋物語。ムンバイの高級マンションを主舞台とし、農村の因習背負うメイドと都市の新興セレブとの対比により、現代インド社会の諸相を鮮やかに描きだす。服飾デザイナーを夢見る主人公ラトナの見せる>>続きを読む

お嬢ちゃん(2018年製作の映画)

3.9

向こうっ気の強い女子が、平穏すぎる日常の奏でる倦怠と惰性に汲々とし己を持て余す。主演・萩原みのりが見せる目ヂカラ演技に惚れる。二ノ宮隆太郎監督新作でこのタイトルは、前作『枝葉のこと』の女子版が観られる>>続きを読む

ホテル・ムンバイ(2018年製作の映画)

4.2

2008年ムンバイ同時多発テロの映画化作。格差・宗教などインド社会の複雑性を反映させつつ、パニック渦中への没入感が物凄い。凶悪凄惨な無差別テロを主題としながら、実行犯らが無知を利用されているだけの、根>>続きを読む

今さら言えない小さな秘密(2018年製作の映画)

3.4

自転車に乗れないラウルが、乗れない秘密を抱えたまま自転車修理工となり、自転車選手から憧れられる伝説の人になって中年を迎えるハートフルコメディ。他人からみれば小さな世界の小さな悩み、でも当人には乗り越え>>続きを読む

パリに見出されたピアニスト(2018年製作の映画)

3.3

駅の公共ピアノを弾く不良少年の旋律に、音楽学校ディレクターが天才性を見出す成功譚。現代フランスの社会格差を反映させ、坂茂設計のラ・セーヌ・ミュージカルやサル・ガヴォーなど観光要素も抑えつつ、ラフマニノ>>続きを読む

ラジオ・コバニ(2016年製作の映画)

3.5

クルド人の街コバニでIS占領下、手作りのラジオ局を始めた一人の女子大生。彼女の声が次第に市民の希望となってゆく。鬼畜の所業をくり返すIS戦闘員が家族のため出稼ぎで戦うただの親父と分かる尋問場面、クルド>>続きを読む

プライベート・ウォー(2018年製作の映画)

3.9

シリアで落命した女性記者メリー・コルヴィンの戦場体験。片目を失いPTSDに襲われながら戦争の真実に迫る姿を、弱さ醜さも込みでロザムンド・パイクが演じ切る。紛争ドキュメンタリーの名手マシュー・ハイネマン>>続きを読む

RBG 最強の85才(2018年製作の映画)

3.9

現代アメリカのファッションアイコンにまでなった現役最高裁判事を描く。法服でもネックレスを使い分ける洒落っ気と、無自覚の差別意識に囚われる男達を「幼稚園児を見守る」構えで捌く知性の奥ゆかしさ。騒ぎ立てる>>続きを読む

ビリーブ 未来への大逆転(2018年製作の映画)

3.8

今年86歳となる現役の米国最高裁判事女史ルース・ギンズバーグを描く伝記物。'50年代の男尊女卑が根強い風潮ゆえに、法科大学院を主席卒業しながら弁護士の夢を諦め教授職を選んだ彼女が、性差別を巡る違憲判決>>続きを読む

パラダイス・ナウ(2005年製作の映画)

4.6

パレスチナをテーマとする、もはや古典的名作の風格すら漂う名作。2010年代のパレスチナ/イスラエル問題扱う良作群のすべてが準拠するといって良い画期作。

ヘルボーイ(2019年製作の映画)

2.3

デッドプールよりマッチョなダークヒーロー、HELLBOYが闘いまくる。ギレルモ・デル・トロ版『へルボーイ ゴールデンアーミー』(2004)を造形面で継ぐ作り込みが良く、ストーリーとかほぼなく闘いまくる>>続きを読む

レディ・マエストロ(2018年製作の映画)

3.7

『レディ・マエストロ』
女性指揮者があり得なかった時代に、常人には耐えがたい犠牲を払い道を切り拓いたアントニア・ブリコの生涯。NYからアムス、ベルリンと舞台が移りゆくなか再現される戦間期バイロイトやベ
>>続きを読む

帰れない二人(2018年製作の映画)

4.1

激動の現代中国を生き抜く市井の男女を捉える安定のジャ・ジャンクー節。日本で言えば昭和から抜け出たような人物らの若き日描く回想すら2000年代という中国社会の急変を、彼固有のフィルム作法が強靭に映し撮る>>続きを読む

ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん(2015年製作の映画)

4.1

北極航路探索に消えた祖父を追うロシア没落貴族の少女描く仏+デンマーク合作アニメ。氷世界を映す色面描写の美に震える。氷原を照らす陽光や灰空の変化を描く語彙の豊富さはまさに北極圏版ポニョ。輪郭は消え、色光>>続きを読む

トレイシー(2018年製作の映画)

3.7

女の心を抱える50代男性が主人公の香港発LGBTs映画。家族の葛藤や価値観の衝突を理知的に描く前半から、老練の粤劇役者が夜街蘭桂坊で己の真性を開花させる中盤を経て、情感烈しい怒涛のクライマックスへ至る>>続きを読む

カーマイン・ストリート・ギター(2018年製作の映画)

3.5

一流のギタリスト達に愛される専門店の穏やかな日々。NYの建築廃材を、残る傷をも活かしギターのボディとする趣向の秀逸。古風な頑固店主のたった一人の弟子がパンキッシュなピアス女子で、客に時折ナメられつつも>>続きを読む

飼育(2011年製作の映画)

2.8

クメール・ルージュの少年兵が、米軍の黒人パイロットを“飼育”するリティ・パン2011年作。大江健三郎原作の生理的昏さや大島渚版の陰湿さから遠く、朗らかな土地性が処々で冷酷な物語を脱臼させる。牛飼いや川>>続きを読む

飼育(1961年製作の映画)

3.6

1961年作。説明ゼリフ連射の前半げんなりするが、村人みなのゲスさ極まる後半でこの溜めが活かされる。大江健三郎原作とは別種の情念をたたえ、敗戦の報がもたらす大人達の呆け顔が良い。描かれる太平洋戦争末期>>続きを読む

メモリーズ・オブ・マイ・ボディ(2018年製作の映画)

3.4

少年が同性愛を自覚するなか、女装した男によるジャワの伝統舞踊レンゲルと出逢うLGBTQ映画。指先から流れる血は象徴する。虐殺弾圧を伴うインドネシア独裁と急進的イスラム主義の下、村の習俗であった芸能が蒙>>続きを読む

見えるもの、見えざるもの(2017年製作の映画)

2.4

バリ島。双子の少女タントリと少年タントラ。脳障害で眠り続ける少年の近づく死を少女は感覚し、月夜に舞う。薄白い宵闇のなか少年は舞いに応じる。ねっとりとまとわりつく昼の空気。夜ごと深まる精霊の息遣い。19>>続きを読む

ローサは密告された(2016年製作の映画)

4.3

マニラのスラムで麻薬を商う雑貨屋のおかんと家族、賄賂で釈放を売る警官達。そこにはただ生活の必要だけがあり、彼らの瞳はスラム社会の構造と秩序を各々に映しだす。携帯とスマホやオート三輪とタクシーの対照など>>続きを読む

アルファ、殺しの権利(2018年製作の映画)

3.0

本物のSWAT部隊を登用し、フィリピン麻薬戦争の現場へ肉迫するブリランテ・メンドーサ新作。傑作『ローサは密告された』のエンタメ+音響強化版といった自己模倣感があるものの、汚職警官を軸としドゥテルテ政権>>続きを読む

壁画・壁画たち(1981年製作の映画)

3.1

LAのチカーノ(メキシコ移民)が描く壁画群。その圧倒的生命力と、たやすく排除・上書きされ得る脆さの内にアニエス・ヴァルダが聴きとる囁き。寄せては返す波のように、決して大文字の歴史などに回収されずざわめ>>続きを読む

アポロ 11 完全版(2019年製作の映画)

5.0

神作品。ただ息を呑む新感覚体験。NASA発掘の70mmフィルムをベースとする本作、1969年を生きる人々の表情や息遣いの鮮明さにまず圧倒され、発射から月面着陸、地球帰還へ至る超現実的な映像に陶酔のあげ>>続きを読む

サタンタンゴ(1994年製作の映画)

4.7

438分のタル・ベーラ大作。“タンゴ”の語の醸す熱さ艶やかさ彩りのすべてが反転した裏世界、まさにサタン。此の現実は仮初めの夢であり、彼の現実こそ世界なのだと懐い出させるこの蠱惑、この地獄からの恩寵にた>>続きを読む

ロケットマン(2019年製作の映画)

3.5

若きエルトン・ジョンが女神ミューズに魅入られ突き抜けゆく瞬間、ライヴシーンの一体感ほか、『ボヘミアン・ラプソディ』の衝撃波をストレートに踏襲&更新する意欲作。『キングスマン』主演タロン・エジャトン(エ>>続きを読む

隣の影(2017年製作の映画)

3.2

アイスランド映画。庭の木の手入れを巡る隣家同士の反目から、諍いの普遍を描く。レイキャビク郊外舞台のブラックコメディという物珍しさを楽しんでいると、スリラー、ホラーへと予測不能の展開を遂げ始める。苔の接>>続きを読む

鉄道運転士の花束(2016年製作の映画)

3.7

ユーゴ映画とでも言うべき、鮮やかにリバイバルした古典名作を観るような趣き。誰かを轢くまで一人前ではないという通念の前で、無事故であることを苦悩する青年と、暖かく見守る養父たち。不思議な死生観をベースに>>続きを読む