きまぐれ熊

Vivy -Fluorite Eyeʼs Song-のきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

Vivy -Fluorite Eyeʼs Song-(2021年製作のアニメ)
4.3
評判が良かったのできっと見所のある作品なんだろうなと思ってたけど、1クールとは思えないほどロスがキツい...。
というのも作品の締め方が完璧過ぎたからだ。

物語の終わり方・締め方というのは作品の印象そのものに直結するくらい重要なものだと思う。

この作品はその締め方と言えるラストカットが完璧過ぎたので、もともと円満ハッピーエンドとは言えない結末の陰影を特に強く印象付ける事に成功している。


この作品は最初の自立型AIである主人公と未来からやってきた相棒AIによる、AI主人公版のターミネーターと言えるプロットの物語。
100年後に起こるAIの一斉蜂起を止めるため、シンギュラリティポイントと銘打った歴史の転換点で戦争回避の為の歴史改変を行うというストーリー。
章毎に時代がどんどん飛ぶので、全体的には吸血鬼者の年代記とかロードムービー的な語り口が近い。章によって登場人物は容赦なく交代していくが、それまでの歴史改変の影響をもつれさせながら100年間を駆け抜ける。

主人公は歌に心を込めるとはどういう事かを悩み続けている歌姫AIという立場で生まれてきていて、歴史改変プロジェクトとは別に心とは何か?というテーマを追求していくのもポイント。

ターミネーターよろしくタイムパラドックスとかそれら技術への整合性などは重要な部分ではなく(ぶっちゃけるとAIガチ勢から見たSF的リアリティも重要ではない)、100年間かけたヒューマンドラマとして見るのがおすすめ。
あくまで主人公の心と戦争回避を主軸に物語が進む。

次々と年代が飛ぶ短編集的な作りなのでロケーションの多彩さも相まって、アクション的な映像面は非常に豪華。映像クオリティはさすがWITスタジオと思える。
アクションのオススメは2話、4話、9話。
特に9話の落下シークエンスは圧巻。定期的に主人公が”モノ“である事を自覚させる冷たいタッチの作画が差し込まれる演出も特に活きているのが9話のアクションシーン。

100年を駆け抜けるキャラクターはVIVYと相棒のマツモトしかおらず、各時代のキャラクターを置き去りにしてどんどん時が進むんだけど、1部分にしか出ていないのに、全編を貫くような印象のキャラクターばかり(というかほとんどそう)なのでよく出来ている。
最終話にこれまでを振り返るような演出があるんだけど、どこも印象深く、本当に各エピソード・キャラ共に上手く彩られているなぁと感心してしまった。


気になる点としてはデザインの借用を役割ごと頂いている点。
オマージュによるデザインを物語の枝葉の装飾に借用するのではなく、かなり根幹のテーマに関わる部分に元ネタのままのギミックを当て嵌めている。それが少ない割合ではなく目に付くのだ。
例えば、本作世界のAIには色と輝度により心情を示唆するLEDが首元に設置されている。これはその仕組みごとデトロイトビカムヒューマンというゲームからそのまま頂いているアイディアだ。それがただの小ネタではなく、キャラクターの重要な心情を語るシーンでLEDがしっかり活躍するせいで借用がかなり鼻についてしまう。
他にも、ニーアオートマタやポータル2など10年代においてロボットものを語る上で避けられない作品からの借用が多く、知っている人は目についてしまうだろう。
ただまあ、本作品独自のテーマとそれに対するオリジナルの回答があったので、総合的にはギリギリ許せるかなという塩梅ではあった。

あまり湿っぽい形でキャラ同士の関係性を描いておらず、結果だけをあっさりとどんどん示されていくので考察も楽しい。
あとは、実写映画で見てみたいと思った。邦画でも映えうる内容だと思う。
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