カニ組長

プリマドールのカニ組長のネタバレレビュー・内容・結末

プリマドール(2022年製作のアニメ)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

まず前提としてこの作品は気持ちが悪い。

何故、戦用自律人形(オートマタ)の中でも性能の高い者たちは揃いも揃って少女の姿をしているのか?逆に言えば、何故少年姿のオートマタは1つも登場しないのか?

答えは簡単。少年型など戦場では誰も求めていないからだ。
ただでさえ心が荒む戦場、そんな生活で人が求めるもの、それは癒しだ。
作中、とあるオートマタの回想シーンで歌を歌って隊の若人達の心を癒した話が出てくる。だが、これは実にオブラートに包まれた表現だと私は感じた。倫理観のバグった戦場に美しい若い女性の姿をしたものがあるのだ。どうなるかは歴史が教えてくれる。
そもそも遊郭の倉庫に機能停止したオートマタが乱雑に置かれてた時点でお察しだ。

要するにこの作品世界に登場するオートマタは全て、人間のエゴ(戦争利用と愛玩)のために生み出され、戦後、人間のエゴ(脅威的な力への恐怖と不安)によって使い捨てにされた。
つまり、この作品の気持ち悪さとは、戦争に携わった全ての人間のエゴなのだ。
そしてその気持ち悪さの本質を知ってから見ると作品に対する評価がガラリと変わるだろう。

何せ、やっと人間に奉仕する必要の無い安寧を手に入れたのに、その束の間の平和さえ、戦争を続けたがってるエゴイストどもに邪魔され続けるのだ。そりゃ、灰神楽も人間を滅ぼしたくなるだろう。
そして皺寄せはやはりオートマタに来る。灰神楽を止めたことで主人公、灰桜は故障し、記憶を失い、結果、自ら初期化の道を選ぶ。これほど悲惨なバッドエンドもそうそう無いだろう。

この作品は戦争の根本にある気持ち悪さを、見事に切ないストーリーとキャラクターの可愛さでオブラートに包みきり、その上で戦争のやるせなさ・悲惨さをしっかりと伝えている。立派な反戦アニメだ。
これは、今の世界情勢だからこそ、響くところのある作品では無いだろうか。
カニ組長

カニ組長