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伊藤潤二『マニアック』のマツタヤのレビュー・感想・評価

伊藤潤二『マニアック』(2023年製作のアニメ)
4.0
や〜、今日は悪い天気ですねえ!

このようなあからさまに反意的すぎてむしろ滑稽でしかない挨拶をするのは富江の滝壺に登場する陰気なセールスマンである。

人々はなぜ伊藤潤二先生の描くグロテスクな化け物達に魅せられるのだろうか。人間は恐怖する生物である。攻撃されること、病気に感染すること、殺されること、ましてや想像力を働かせて怒れる神々や悪意を持った精霊のような時には目に見えない行為主体をも恐れる。人類は進化の過程で大脳新皮質が拡大し、再帰的で象徴的な事実に反する思考ができる余地を生み出し、その大いなる特権とともに底知れぬ脅威を感じるようになったのだ!ピカーッゴロゴロー⚡️

ホラーにおあつらえむきな遠雷も登場してきたところで話を次に進めよう。
マニアックにも登場する多種多様に創造された恐怖システムたちはどれもこれも魅力的だ。ゾッとするほど美しい富江、tantalizing(じれったいの意。ギリシャ神話のタンタロスにちなみ、神々の怒りを買い罰として沼に沈められ、飲もうすると水が退き果物を食べようとすると枝が遠ざかり、永遠の乾きと飢えに苦しめられた、が転じてじれったさ/欲しいものが手に入らない)な双一(長い)などなど。
それは一度食べたら止まらない某ファーストフード店のフライドポテトかのような、見始めたら見たくてたまらなくなる精神のジャンクフードなのかもしれない。我々の特性でもあり周囲の潜在的脅威に強い関心を払う恐怖システムに対する進化論的構造はホラーフィクションのモンスターに魅了される生態系なのである。

例えば人間は大量のマッシュルームと花の画像から蛇の画像を探す方が、大量の蛇の画像からマッシュルームや花の画像を探すよりもずっと速いのだ。。。。さて何の話をしていたんだっけか。

そう、伊藤潤二先生の創造物が人々を魅了するのは驚くにはあたらないという話。宇宙的な視点から見れば、私たちは自我、それは宇宙とその力に関する偏見に満ち、ゆがんだ考えにふさわしい倒錯した自我が異常に発達した、奇妙な小さく弱い猿に過ぎないのだから。。

とまぁ、なんだかんだ言ったところで、休みの日にホラー見てるって結局、ちょっとヒマってことでしょ。。。

いやいや、さあ!人類の進化とともに我々の発達していく恐怖モジュールと共に併走する伊藤潤二プレゼンツなキャラクター達の進化は止まらないのだ!
しめの言葉は同じく富江滝壺に登場する自殺の名所にある立て看板に記された言葉より「もう一度よく考えよう。あの世は暗くそして寒い」。まさしくこれから伊藤潤二作品を見ようとする人たちへのメッセージである。
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