鈴木ピク

BanG Dream! It's MyGO!!!!!の鈴木ピクのレビュー・感想・評価

BanG Dream! It's MyGO!!!!!(2023年製作のアニメ)
4.6
コンテンツという枠組みの中から奇跡的に生まれたが、しかし偶然ではなくちゃんと積み重ねてきたもの+作り手の野心によって生まれたものでもある、完成度としては歪なのだが、とにかく傑作でした

リトバスの日常回で他の追随を許さない少女たちの会話の愉しさを見てから、ずっといつか爆発しないかなと願っていた綾奈ゆにこ脚本のグルーヴ感が、シリーズ構成全体にも波及している

正直最初に1,2話を見た時は勝手に「解散したバンドが再結成する」話だと思っていたので、解散したバンドと結成したバンドのメンバーの微妙なズレが起こっていること自体に気づいてまず面白い

視聴者はメンバー間の軋轢を知らない愛音の視点となって人間関係の綾の中に飛び込んでいくが、それは物語の起点ではなく、延々と流れている大河の濁流の最中に釣竿を落としたような掴みようのなさだ
すでに物語の始まっていた人物たちへと視点が移る中で、実は視点人物と思われていた愛音のことも何も知らなかったことを知り、そこへあの人物のキャラ豹変が畳みかけられ、いよいよ誰を主眼として見ていいかわからなくなる
そこに気づけば(やがてMyGO!!!!!と名付けられる)「バンド」という塊が主人公として浮上する

お話として何がどうなったという事ではなく、この彷徨する迷子の魂たちの交錯という過程を眺めていられることに連続アニメの面白さがある。最後には予定調和に収まるとしても、そこに至る混乱の中に「人を見て、ドラマを見て、画面を見る」豊かな体験が詰まっている

自分の映画人生で、面白いつまらない超えた「ただ何もなく通り過ぎている虚無体験」として本作と同じ座組の作った同じバンドリフランチャイズのロゼリアの映画前後編は本当にひどいものだったけれど(話も本当につまらない)、ただ3Dモデルの世界でも実在の街並みを繰り返し映すことでそこに立体的な世界を構築しようという苦心の後は感じられ(成功してはいなかったが)、一方でバンドリFILM LIVEでは「楽屋の長回し」というCGアニメならではの演出の可能性を見出し、さらにポピパの映画ではハワイの夜の空間がスクリーン上に奥行き深く広がっているのを感じる達成があった

こうした試行錯誤の果てで、明らかに今までとは1つ2つどころか5つも6つもハードルを越える試みを本作に詰め込み、勝負を仕掛けに来たのだと感じる

行く当てのない迷子たちの錯綜が楽しかった反面、終盤でもう一組のバンドに回収されてしまうくだりは、それもまたコンテンツの要請とはいえ予定調和的過ぎて(いかにもエレメンツガーデン上松サウンド含め)、そこはあまり乗れなかった。

それよりあくまでMyGO!!!!!のドライブ感あふれる、ある日普通にバンドメンバーが入れ替わってしまうような危ういドラマにこれからも付き合っていきたいと思った。叶わぬ夢でしょうか

余談ながら、岩井俊二『キリエのうた』に期待してついぞ見せてもらえなかった「浮遊感溢れるバンド結成シークエンス」をまさかここで享受できるとはという喜びがありました
鈴木ピク

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