かささた

T・Pぼんのかささたのレビュー・感想・評価

T・Pぼん(2024年製作のアニメ)
3.0
1話ずつ丁寧に観ていこうと思っていたのですが、つい最後まで観てしまいました。(最後といっても最終話ではありませんが)
内容についてはほぼ原作通りで、一話ごとに専門家の考証がついているので、史実としての精度が上がっている感じです。一言で史実と言ってもここに描かれているのは第二次世界大戦だったり古代エジプトだったり恐竜時代だったりするので、そのたびに違う専門家を呼ばなければならないような話なのにたった一人で普通に連載していた藤子·F·不二雄は博識だなあと再確認しました。
またこの原作はドラえもんのような子供向けの雑誌に連載されていなかった事もあってか、残酷な描写に容赦がありません。弱肉強食であったり人権思想が根付いていなかった(現在も根付いていませんが)歴史の現実から目を逸らしたく無いという藤子·F·不二雄の願いの現われかと思います。それら残酷描写がカットされたり過剰に誇張されたりしなかったのも今回のアニメ作品の良いところのように思います。

また昨今の風潮を鑑みてか性表現のコンプライアンスを守ってますね。女性キャラクターが性コンテンツとして描かれている箇所はまず無いです。そのせいかどうか主人公のぼんは多感な中学生なのに性にまったく興味のない人物のように描かれているようにも見えました。

ところで皆さんは橋爪悠也という人間を知っているでしょうか。藤子·F·不二雄の作品をトレースしてあたかもアート作品のように売り出している人物です。アートの世界には流用や盗用、アプロプリエーションといった手法があるのですが、橋爪が行っていることはただのトレースつまりパクリです。ただ橋爪の目の付け所がうまいなーと思ったのは藤子·F·不二雄のキャラクター、その表情に注目したところです。

橋爪が図々しくトレースした藤子·F·不二雄作品のキャラクターは出自を曖昧にしながらも好意的に受け入れられました。(藤子プロダクションに許可をもらったわけでもなく、藤子·F·不二雄のキャラクターを流用したと認めたわけでもなく、橋爪はただ「オリジナルな表現など無い事をテーマとしている」などとふわっとした言葉で自らのパクリ行為を肯定してます。現代芸術の文脈の中で自分の作品をきちんと言語化する事が出来ていません)藤子·F·不二雄のキャラクターが現代でも唯一無二、稀有なものとして通用する事を示した、という意味では橋爪に功績があると思います。

長々書いて何が言いたいのかというと、キャラクターデザインは藤子·F·不二雄のデザインを忠実に再現するだけで良かったんです。それだけで十分に現代に通用する新しいものとなり得るんです。でも1989年版も2024年版も原作に忠実なキャラクターデザインにはならなかったのが残念です。勝手にトレースして金儲けに使っている人間がいるくらい優れたデザインなのに、アニメ化なら正々堂々とあのキャラクターの魅力を再現し放題なのに。ドラえもんも旧作も新作も原作に忠実では無いのでそろそろ原作通りのデザインが出てきても良いのにと思います。ここまで書いて庵野秀明が過去作のリメイクにあたって無駄に原理主義を貫いていることにブーブー言ってたのに自分もけっこう原理主義者だなーと思いましたよ。

あとブヨヨンの声だけは許さん。
かささた

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