平野レミゼラブル

ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨンの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.5
Twitter上で「アイエエ!?ナンデ!?ニンジャナンデ!?」に代表される珍妙な日本語や日本観で人々を笑わせ、その一方で徹底してハードでシリアスにそれでもやっぱりトンチキなサイバーパンクを描く軟硬併せ持つ巧みな作劇で人々を惹きつけたあの伝説のニンジャ活劇の、やはり伝説的なアニメ化。
各種コミカライズが好調、先行して出ていたドラマCDのキャストが全員ハマり役&続投決定、製作会社が『キルラキル』のTRIGGER、そして原作者ブラッドレー・ボンド&フィリップ・ニンジャ・モーゼスが「各メディアミックスの特性を生かす」と発言したとなれば、TRIGGERの外連味のある超作画でニンジャによるイクサが描かれるとヘッズ(ニンジャスレイヤー読者のこと)たちは息巻いたものです。
しかし、第1話「ボーン・イン・レッド・ブラック」で「みぃ~つけたぁ」の一言と共にお出しされたソレは、Flash仕様の横スクロールアニメーション。まるで『秘密結社鷹の爪』の演出のそれで、キャラクター達がスライド移動したり、ぶつけたり、回転したりして描かれるカラテのソレはヘッズ達の理解の許容値を超え、「アイエエ!?ナンデFlash!?鷹の爪ナンデ!?」と瞬く間にARS(アニメイシヨン・リアリティ・ショック)に陥りました。

まさか活かされるTRIGGERの特色が『キルラキル』とかじゃなくて、同じくFlashアニメ仕様のWebアニメ『インフェルノコップ』なんて考えるワケもねーだろ!!
一応、全てがFlash仕様ではなくて、バトルが白熱すればちゃんとした作画にもなりますが、そこまで特別クオリティが高いワケでもなく、バンクの再利用なんかも目立ち、決着の瞬間にFlash仕様に戻ったりする不安定ぶり。
まあ、バンクの使い回しは原作でもままあるコピペしたかのようなリフレイン演出ですし、Flashとアニメの不安定ぶりは気を衒った演出故でしょう。
最初に原作者にアニメ化のお伺いを立てた時の選択肢が「リアルなデザインであまり動かないアニメ」と「独自のデザインでとても動く(Flash)アニメ」な時点でそもそも予算があまり下りなかったことは察せられ、その上で、「アニメなんだからアニメでしかできないことをやるんだ!」というボンモーの意思は最大限汲みたいところではあります。しかし、前述通り忍殺の魅力はトンチキな中で展開されるシリアスな格好良さや物語であり、最初からトンチキ100%の絵面にしてしまうのはそれはそれで違う気がしてならないです。何というか、この演出を「これでこそニンジャスレイヤー!」という方向には、とても褒められないというか……

こういった誓約の中で描くにしても雑な部分も目立ちます。一糸乱れぬ動きをする筈のクローンヤクザが、バラバラのタイミングで痰吐きをしていたOPからして顕著でしたが、そもそもの原作再現が低い部分も多々あります。アニメならではの改変であるならば良いんですが上記クローンヤクザは後に修正されたように、あまり原作を丁寧になぞってないのでは?って疑念は、安直にFlash混じりのアニメにしてしまった部分と絡んで複雑な気持ちにしてくれます。
また、放映時間が15分なので原作の内容を大幅に端折るのは仕方ないんですが、その限られた尺配分で拾う部分がおかしかったり、単純に間が長すぎて無駄に時間を圧迫しているのも気にかかる。これも奇を衒った演出の一つなんでしょうが、そんな単純な面白さに繋がらない演出なんてどう考えても要らないんですよ!!

そもそもの予算の使い方もおかしく、EDに豪華アーティストたちを起用し、毎回曲が変わるのは贅沢ですが、そっちにお金回すくらいなら映像の方をもうちょい良くしてほしいってのが正直なところ。


そんな感じで駄目出ししていくと、割と無尽蔵に駄目な部分が出てくるのですが、なんやかんやでこちらもウケて、今後の原作関係に様々な影響をもたらしたので一概に悪く言えないのも事実。
田畑由秋&余湖裕輝両センセイのコミッカライズ(いわゆる無印版)では、何故かシヨン1話をリスペクトしたかのような演出が再現されて笑いを誘いました。
また、原作第3部最終章クライマックスにおける展開は、シヨン最終話と重なるかのようなまさかの展開となっていて、特大の笑いと謎の感動が広がる更なる盛り上がりに繋がったのは否定できません。
なので、割と功もそれなりに大きいんですよ。

あと作風に慣れさえすれば、原作とは違うアプローチながらしっかり面白いって話もあるので、シヨンがお出しするアニメーションの出来も馬鹿にできないところもあります。
第5話「レイジ・アゲンスト・トーフ」はシヨンの中では一線を画した全編割と動いているアニメ回であることもさることながら、ラストシーンでシガキ=サンがニンジャのイクサをウキヨエタッチにしながら見るアレンジを加えることで、彼がこの先再起するかもしれない希望を持たせた独自演出にグッときます。
第13~14話「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」は原作でも屈指の名作なこともありますが、演出や話の端折り方が適格で純粋に出来が良いですし、ヤモト=サンが最後に煙草を吸うところを(未成年喫煙のコンプライアンスに配慮したこともあるのでしょうが)空っぽの煙草箱を取り出すに変えたことで「ソンケイした男はもういない。でもその生き様は受け継いだ」というアプローチになったのも良い。
第16話「アット・ザ・トリーズナーズヴィル」は正直原作ではかなり印象の薄い回と記憶していましたが、演者の小気味いい舌戦(後述)や決着の静謐さ、ナンカスゴイED曲のおかげでシヨン版はかなり印象に残り、妻子の復讐の為に殺戮者となっているフジキドが人間性によってギリギリ踏み止まれていると必死に自分に言い聞かせるかのような吐露が飛び出る重要回だったことを認識する驚きがありました。

あと第25話「ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨン傑作選」ね!
・最終話直前に突如ブッ込む総集編
・そのクセ全てシヨン未放送のエピソード
・当然全て新規作画
・開幕1分近く美声(福山潤)で喘ぐアゴニィ=サン
・作画崩壊したような回をわざと混ぜる
・ヤクザ天狗やデッドムーン等の人気キャラがここで初登場
・上記キャラに中田譲治=サン、武内駿輔=サンといった人気声優を起用
・ただし出番はワンシーンくらい
・ラストが『ウルトラマンコスモス』総集編のパロ
…といったこれまでの比じゃないくらいのネタを突っ込んできていまして、これこそ『ニンジャスレイヤー』に求めていた胡乱さだったこともあり素直にゲラゲラ笑えました。あと名シーンと美声がテンポ良く絶えず続くから、純粋に聴き心地が良いです。

無駄に金をかけた印象は強いものの、楽曲もやはり良いものばかり。お気に入りはTHE PINBALLSの『劇場支配人のテーマ』と、GEEKSの『NINJA SOUL』。
前者は「アイエエ」以外に忍殺用語を使っていないのに、まるで忍殺の1エピソードのような雰囲気を醸し出す歌詞カラテの練り具合がスゴイ。
後者は反対に「イヤーッ!」「グワーッ!」「サヨナラ!」「爆発四散」と忍殺語だけで歌詞を構成していながら一気にのめり込ませる歌唱カラテの勢いがスゴイ。「モスキート・ダイビング・トゥ・ベイルファイア」等のマイナーな用語を組み込んでいるのもガチ。

あと、声優の熱演も凄く良くてですね、台本が丸々1ページ「イヤーッ!!」と「グワーッ!!」で埋まっているようなふざけた台詞のオンパレードなのに、全員シリアスかつ大真面目に演じている熱が凄くイイ。
地味に好きなのが「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」でサードアイ=サンを演じた古川慎=サンと、「アット・ザ・トリーズナーズヴィル」でプロミネンス=サンを演じた福島潤=サンですね。
サードアイ=サンはそれ以前のドラマCDで演じられていた時よりもサンシタ度がマシマシになっており、また散り際の「サヨナラーッ!!」の発声が全ニンジャで最も綺麗。ベスト・サヨナリストです。古川=サンも売れっ子になって、様々な格好良い役をやるようになったのにサンシタ演技に磨きをかける姿が素晴らしいです。
プロミネンス=サンは全体的に元気重点。インパクト抜群な「ップロミネンスです!!」の挨拶に始まり、「情けない!」「出来損ないの!」「ニ ン ジ ャ ア ナ キ ス トとなぁ!」といったいちいち強調するバトウ・ジツ、勢いの割にすぐにやられる情けなさ、散り際の妙に爽やかな「サヨナラ~♪」など、ソウカイ・シックスゲイツのツラ汚しとまでこき下ろされたサンシタのクズっぷりを塗り替える新たなップロミネンス像を築き上げました。
両忍ともに当該エピソードで爆発四散する大してカラテも強くないサンシタでしかないのですが、その溢れんばかりの熱演で見事に死に花を咲かせています。


といった形でかなり功罪半ばな出来であり、割と納得出来ない側面もあるものの、当時はこれはこれとしてなんだかんだ楽しんでいた作品でした。尺が短いのと、演者の熱演から作業用BGMとしては割とちょうど良い部分もあるんでね、16話とか25話は何回もリピートして観ていた記憶もあります。そういう意味ではスルメアニメと言えなくもなくもなくもない。
ただ、アニメ化以後、割と活発だった各種メディアミックスが一時期パッタリ途絶え、物理書籍版も中々出なくなった冬の時代が到来したのは、確実にこのアニメイシヨンの影響によるものだと個人的には思っているので、そういう意味でも功罪半ばの上で罪の方が微妙に大きいような気がしないでもないよ……