Kazu

地下鉄道 ~自由への旅路~のKazuのレビュー・感想・評価

地下鉄道 ~自由への旅路~(2021年製作のドラマ)
5.0

ライブオークの樹木、
ジョージアのスパニッシュモスが風に揺れ、白くふわふわの綿毛をつけた、どこまでも続く綿花畑

こんな自然豊かで美しいロケーション、
情景描写が素晴らしい。
そこにチームジェンキンスのニコラス・ブリテルの音楽が場面に寄り添い流れだす、
それだけで心が揺さぶられる作品。


『それでも夜は明ける』

『バース・オブ・ネイション』

『マンディンゴ』など数々の黒人奴隷制時代の作品があります。

しかし今作は少し違う、

白人への強い憎しみだけを描くのではなく子供達への愛と、深い母性が全編通して描かれていると、私は思った。

もちろん、黒人奴隷を描くには残酷で辛い歴史を必ず描かなくてはなりません。

しかしそればかりが強調されているのでなく、黒人の心も、白人での立場も今までにない角度から描かれている。

全編通してのストーリーは主人公少女コーラの自由と自分を置き去りにした母親を追っての逃亡劇ですが、
すべてのepisodeが完璧で、一人ひとりの登場人物を丁寧に描き、各エピソードが完結されている。

逃亡するコーラを容赦なく追い続ける悪役をジョエル・エガートンが9episodeまで演じています(脇役ではなくほぼ主役)
奴隷狩りなんだけど、彼の演技が素晴らしく安心して最後まで観ることができた。

1〜6epiまではほんと辛いです。
7〜8epiでは少し安らげる瞬間もあります。
それは、ドビュッシーの「月の光」
が流れるシーンです。
ここだけは唯一幸せです。しかし
それは初見の時だけです。

再鑑賞する時は1番泣くかも!
少しネタバレになってしまってるかも知れません。

全epi好きだけど、10epiはもうだめ。何回観ても泣く。

各エピソードに脇役として名優がそろって出演。

エンディング曲は秀逸。

全編通して流れるニコラス・ブリテルの音楽は私を苦しめてくれました😭

今作は映画『ハリエット』のように隠語である"地下鉄道"を逃亡奴隷を助ける為に"地下に本当にレールが敷かれ列車が通っていたら?"という原作(コルソン・ホワイトヘッドがピュリッツァー賞を受賞した『アンダーグラウンド・レイルロード』)に基づきファンタジーな部分もあります。

しかしながら作中に起こる事件や出来事は歴史に残る事実であり、
3epiで登場する役名グレースはハリエット・アン・ジェイコブズという実在の人物です。

タルサ人種虐殺、強制断種や梅毒実験などの医療レイシズム、性暴力(女奴隷)、人身売買、など歴史に残る実話をストーリーに盛り込こんでいる。


題材が自分たちの祖先が実体験したことを演技しなければならない俳優たちにとって精神的にとても辛いであろうとの事で、セラピストも現場に常駐させたという、ジェンキンス監督の心優しい配慮にも感動した。

苦しく残酷な場面直後のショットは必ずといっていいほど美しいジョージアの景色が情景豊かに入ってくる。
これも観ている私への優しさか、と、とても嬉しかった。

ドラマなので先を急ぎ見してしまう気持ちは止められませんが、

今作は10本の映画を鑑賞するという気持ちで、ゆっくりじっくり観て欲しい。

中弛みするという感想を少し見ましたが、それは絶対ありません。

全てのepiに深い意味があり省くエピソードはありません。

私はこれから先、何回も見直す作品と出会ったと思っています。
Kazu

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