サマセット7

メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実のサマセット7のレビュー・感想・評価

4.3
[短評]
2021年エミー賞のリミテッドシリーズ部門にて、ケイト・ウィンスレットが主演女優賞を獲得した他、助演男優賞、助演女優賞も獲った、刑事ドラマシリーズ。全7話。

舞台はイーストタウンというアメリカの小さな街。
一年前から若い女性が行方不明になっている、というのが街における最大の事件だったが、さらに、若いシングルマザー、エレンが銃殺される殺人事件が発生する。
ベテラン刑事として頼られる女性メア(ケイト・ウィンスレット)は、誰もが互いのことを知っている狭い街において、事件の捜査を通じて住民の隠された一面を知ることになる。

基本的には、誰がエレンを殺したか、というミステリーが話をリードする。
しかし、多くを占めるのは、多数登場するキャラクターたちの人間ドラマである。

例えば、主人公メアの家庭は、メアの母、メア、娘、孫の4人暮らし。
しかし、家の裏にはメアの別れた元夫が恋人と共に住んでいる。
メアは、孫の親権について孫の実母と係争中だ。つまり、メアの孫はメアの娘の子、ではなく、今は亡き息子の子、ということになる。
家族は自分たちを破綻した、と認識しているようだ。

一方、殺されたシングルマザー、エレンは子の手術代をめぐって、子の父親とトラブルになっていたらしい。
エレンは、メアの親友の親戚で、メアも知らない仲ではない。

また、行方不明の女性ケイティの母親も、メアの古い友人だが、警察の捜査が結果を出していないことに苛立っている。
現在メアとは冷戦状態、というところ。

その他、しばしばメアを頼る高齢の夫妻、薬物中毒の兄に苦労する妹、被害者の子の若い父親とその両親、被害者の粗暴な父親、街の人間関係に通じた神父と助神父など、描かれる人間関係は多様だ。

メアには、イケオジ(ガイ・ピアース)とのロマンスもあり。
捜査には、相棒として街の外からコリン刑事(エヴァン・ピーターズ)が加わり、とぼけた良い味を出している。

今作において、圧倒的に際立っているのが、ケイト・ウィンスレット演じるメアである。
タイタニックの大ヒットで著名なオスカー女優だが、今作では、40代という年齢に完璧にフィットした役を演じる。

40代とは、仕事、恋愛、結婚、出産、育児など、それまでの人生に何らかの結果が出た年齢であり、一方で、社会の最前線に立つ現役バリバリの年齢でもある。

彼女は今作においてほとんど化粧しておらず、ミドルエイジの白人女性らしい大柄な体型も隠そうとしない。
ほぼ全編不機嫌な顔をして、隙を見て電子タバコを吸い、瓶ビールをラッパ飲みする。

メアは、プライベートに生じた空隙を、捜査に没頭することで埋めている。
ケイト・ウィンスレットは、どうにもならない日々に疲れ果てながら、それでも捜査に邁進する中年刑事を体現している。

メア以外のキャストも、いずれも良い。
特にメアの母親であるヘレンを演じるジーン・スマートが、憎まれ口を叩きつつキュートなおばあちゃんで、印象に残った。

毎話、捜査を軸にしつつ、じっくりと人間ドラマを描くが、各回のラストには必ずクリフハンガーが仕掛けられている。
序盤はスローペースだが、中盤から終盤にかけてはなかなかの盛り上がりで、最終話ではしっかりミステリーとしても満足させてくれる。

最後まで見終わると、今作が、家族の絆、特に親が子に向ける無償の愛と、人生のままならなさ、そしてシスターフッドを描いていたことに気がつく。
ほとんどのキャラクターは、このテーマを描くために配置されていると言ってよい。
味わいはビターだ。
大人のドラマ、と言えるかもしれない。

ラスト。
人生における喪失を、人はどのようにして埋めようとするのか。
決して、埋まりはしない。
ただ、埋まらないことを受け入れることに慣れるだけだ。
吹き荒れる嵐は、身を寄せ合って過ぎ去ることを待つしかない。

刑事ドラマとしても、家族のドラマとしても、ミステリードラマとしても、高品質な、良いドラマだった。