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ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜のYMのレビュー・感想・評価

5.0
今期最強ドラマは『ハコヅメ』。これは間違いない。
ロス真っ只中でこの感想を書く。このロス度合い、『MIU404』や『愛の不時着』とかに比肩しうるものだと思う。キャスティング、構成、演出……本作はコミックの映像化作品の大成功例である。

ドラマ最終話直前に、いてもたってもいられず原作も一気に最新巻まで購入した。そのうえで思うのが、やはり構成の妙であろう。
原作があってのドラマ化・アニメ化なら、最初から流れを追って普通にそのまま映像化する、というのはよくあることだ。映像化するにあたっては、『鬼滅の刃』みたいな愚直な例は稀で、すべてをそのまま再現する例はすくないから、なにかしら抜け落ちるものが生じ、結果そこを指摘したファンから「残念だ……」の声があがる。よく見る光景だ。

本作にだって、原作からこのドラマになるにあたって、なくなった要素がたくさんある。先輩女性警官・牧高(西野七瀬)の活躍はほとんど川合のものになったし、副署長(千原せいじ)がなぜ今日もあの日も”バカみたいに”無線機のまえに突っ立っていたのかも語られず、トラウマ払拭に役立った交通課の宮原部長(駿河太郎)は藤のふるまいを誤読し川合に不安を与えたあとは再登場なし。
正直、ツッコミどころとなりうる。ちなみに、どれも原作では魅力あるストーリーが語られている。
そしていちばん大きい要素としては、生活安全課・黒田カナの消失だろう。原作では川合の先輩警官として重要な役回りを果たすカナはポッカリといなくなり、町山署のキャラクターは刑事課に限られた。

しかし、そんなことは、「Season2にやればよい!」と断言したい。
むしろ、それらがなくなったことで、クリアになったことも多い。原作のエッセンスはそのままに、ときに巻を挟むことさえある別々の回をつなげてパッチワークにし、「川合の成長物語」というひとつの目標に落とし込む。川合の成長にフォーカスし、かつ、そのきっかけがペア長藤部長との絆にあるということが原作以上に強く、語られることになった。この脚本・構成がめちゃくちゃうまい。だからこそ、映像化「大成功」といえるのだ。

(ちなみに、消えた黒田カナを主人公にした17巻と18巻のあいだあたりに位置する『別章 アンボックス』も読んだ。この長編はスゴい! 後半からあのラストには感情をめちゃくちゃ揺さぶられるので、いまからカナのキャスティングを妄想している……誰がいいでしょうかねえ)

キャスティングといえば、藤・川合はたしかに戸田恵梨香・永野芽郁が適役だという説得力がある。源と山田にいたっては原作はアテ書きのようにさえ思える。読んでいて三浦翔平と山田裕貴の声で再生されるレベル(笑)。

物語が加速するのは、やはり「交通事故のトラウマ」をあつかったEp.6からであろう。「ミス・パーフェクト」も、桜と重なってしまう後輩をまえには「パーフェクト」ではいられない。そんな藤が示される回だ。
この回が、私は原作の料理がいちばん巧いものだと感じる。
それはたとえば、旧劇(TV版)とほぼおなじことをやっている『エヴァンゲリオン新劇場版:破』において、後半、シンジが父ゲンドウに「僕は……エヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジです!」と叫ぶシーンには、そこまでのシンジのさまざまな葛藤と成長に裏打ちされたものがあってのシンジの決断だ、と視聴者にわからせるものがある。
このシーンや、それぞれの証拠シーンは、もちろん旧劇版にも存在する。しかし、30分枠の各回に分かれていた旧劇にはなかった”重み”や”深み”といったものが120分の映画ではより明確に、よりクリアーに引き出されている。ではそれを可能にしたのはなにかといえば、語りのダイナミズムであるといえるだろう。
このEp.6は、それと同じではないだろうか。この回は「川合の成長」と「藤のペアっ子を想う気持ち」を感動ポイントに明確におき、そこに収斂させるべく原作の複数のエピソードをひとつにとりまとめた。原作のどことどことどこのエピソードか、見比べるのも面白い。それゆえ、この回はあきらかに原作を超えているものといってよい。脚本家・根本ノンジの仕事がスゴい。藤が源に隠れて涙をこぼすシーンも良い。

Ep.8は盛りあがりとしては最高潮で、いちばん好きな回だ。終盤の、数回前のリフレインで、今度は川合が藤に湿布を貼るところが良い。ここから場面はいわば、ようやく訪れた藤と川合の告白シーンではないかと。
「後悔してる」と言われた川合が返す「ペアを組んで良かったって思ってもらえるような警察官になってみせます」に、「おこがましいわ」と言って帽子で顔隠す戸田恵梨香。涙ぐんでそれを見つめる永野芽郁。いやいや……藤と川合、ペア同士のたがいに向ける感情、大きくそして尊すぎやしないか……。そういえば原作では、「人間関係の深まる先にあるのが恋愛感情や友情だけだとしたら、私の藤部長への気持ちはどこに着地させたらいいんだろう」と悩む川合と、生命保険の受取人に川合を選ぼうとする藤の姿があった(その155)ので、たんに”百合”のラベルを貼ってカテゴライズすることができないふたりの関係に今後も目が離せない(しかし、あらためてスゴいな)。

Ep.9最終話は、そういった意味では脚本家の料理は少ない。「川合さあ……あんた私のことあんなふうに思ってたんだね」とビビらせてから、ふりむいて笑顔で「ありがとね」というときの藤、というか戸田恵梨香がいい。もちろん、そのあと二ヘラァっとしてペア長に絡む川合は最高。

因縁の事件と言われた守護天使でさえ、あっけないというか、極悪犯罪者とは言い切れないところもふくめて、このドラマらしい決着だった。私は「新任の女性警官を轢き殺すべく虎視眈々と狙うサイコ・キラーなんじゃないか」と思っていたので、たんに「娘を思い出し……しかし疲れからか……」と語られたときは意外だった。でも、よくよく考えるとこちらのほうが幾分か、普通の暮らしのなかにある「リアル」だよな、と思う。
よく刑事ドラマや映画にあるように圧倒的リアリティ!と謳ってるわけじゃないし、公安や内閣官房の悪巧みもないけれど、代わりになんとなく自分のまわりに置換可能そうなリアリティはある。ひとつの街、半径5kmくらいを扱う警察ドラマは、イマドキ珍しい。笑いあり、ときに涙あり、安心していつでもたのしめるドラマ。だからこそ、今期最強の作品だと思う。

彩ったナンバーもよかった。
ロイ-RöE-の「YY」はクセになるし、miletの「Ordinary Days」はシーンにピッタリのタイミングで入ってくる。『MIU404』の感電並でしょ。

さて、原作はまだまだ連載中、話もたくさんある。最終話で守護天使を一喝した伊賀崎交番所長(ムロツヨシ)も、なんとな~く過去が匂わされて終わったくらいだから、Season2、やるでしょ。このキャストで、ぜひ。
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