サマセット7

SHOGUN 将軍のサマセット7のレビュー・感想・評価

SHOGUN 将軍(2024年製作のドラマ)
4.5
[短評]
ハリウッドが予算をかけ、日本人俳優や日本の専門家を大挙招聘して製作した戦国時代劇ドラマシリーズ全10話。

プロデューサー兼主演の真田広之は、細部にまでこだわって一つ一つ「おかしな日本描写」を潰していったという。
その結果、海外産の日本ものとしては極めて異例なことに、日本人が見て変だと思う描写はほとんどない。

細部にこだわった衣装や美術や舞台となる土地(カナダで撮影)の美しさも大きな見どころだが、今作の最大の魅力は、役者陣の名演と脚本の妙に尽きると思う。

真田広之!アンナ・サワイ!西岡徳馬!
浅野忠信!二階堂ふみ!
その他若手俳優の一人一人に至るまで、日本人俳優の演技力を見せつけている。

全編にわたり緊迫感が漲る脚本も見事。
日本に流れ着いた英国人航海士のジョンと通訳を務めるキリシタンの鞠子を主要人物に据え、日本語と英語の通訳の過程をじっくり魅せて、異文化間のコミュニケーションと双方の学びを浮かび上がらせる、という趣向は、ハリウッド産時代劇ならではのもので、惹き込まれた。
いちいち文章が詩的なのも良い。
「花は散るからこそ花なのです」とかね!

演技と脚本の素晴らしさが最も際立ったのは、8話ラスト近辺のシーンと9話だろう。
海外における高い評価も納得だ。

物語の結び方は賛否あるかもしれないが、全体としてゴージャスかつ目が離せないドラマだったことは疑いない。
ディズニー+に加入しているなら、必見である。

[追記]2024.4.26テーマ考
今作は重層的な作品で、様々なテーマが織り込まれている。

大きな幹として、今作は日本人の精神性を紹介する作品である。
この啓蒙的な姿勢は、発刊時と初回のドラマ化時(1980年)に日本ブームを巻き起こしたジェームズ・クラベルの原作に依拠する、と思われる。

日本人の精神性としてクローズアップされるのは、何重にも重ねられた壁の中に秘められた本心、という部分と、死生観の部分だ。

八重垣、や、三つの心、という言葉で表現される日本人の本心を内に秘める精神性を体現するのが、真田広之演じる吉井虎永。
モデルとなった徳川家康の半生を振り返ると納得するが、家康は自らの野心を隠し通して、信長と秀吉の治世を生き抜いて、日本最大の領地を持つ大名となった人物であった。
彼の秘めたる計画は、本当に存在するのか?存在するとすれば、その中身は?というミステリーが、今作を引っ張る。

そして、日本人の死生観を体現するのが、アンナ・サワイの演じる戸田鞠子、である。
明智光秀の息女である細川ガラシャをモデルとする鞠子は、謀反人の娘として、常に「意味ある死」を切望する。
鞠子のみならず、常時死と向き合い、必要とあれば自らの腹を切り裂くことを厭わない日本人の姿は、ジョン・ブラックソーン(及び想定される海外の観客たち)の理解を絶する。

しかし、話数を経るに従い、ジョン(と観客)に、日本人の「意味ある死」を希求する本当の意味が伝わる構造になっている。
すなわち、意味ある死を求めるとは、意味ある生を求めることなのだ。
そして、死という終わりがあるからこそ、限られていたとしても、生は美しくあり得る。

戦国時代の日本において、意味ある死とは、主君への忠義を全うすることであった。
では、今の日本人にとって、意味ある死、すなわち、意味ある生とは何か。
この何もかもが不確かな時代、もはや絶対的な忠誠の対象は、あり得ない。
したがって、人は自らの死の意味を、自ら選び取らなければならない。

劇中、意味ある死を追求する鞠子の姿は、あまりにも切なく、あまりにも美しい。

今作は、女性の真の強さを描いた作品である。
アメコミものなどでは、単純に女性に肉体的なスーパーパワーを付与して、「強さ」を表現することが多いが、今作のアプローチは、180度異なる。
鞠子をはじめ、藤、落ち葉の方、お吟、鈴など、今作で印象的な女性は多いが、全員が、知性と言葉によって、男性以上に物語に確たる影響を与えていく。
スーパーパワーなど、必要がないのだ。

そして今作は、異なる言語の翻訳について描いた作品でもある。
ジョンの言葉は、通訳である鞠子によって、ほとんど意訳される。
そこには、常に通訳である鞠子の価値観や考えが反映される。
そのスリリングさ。
今作が常に観客に緊張感を与える所以の一つであろう。

1ヶ月間、どハマりしたドラマであった。
原作を全て描き切っており、続編は期待できないようだが、似たような座組で、日本の時代劇ものをまた作って欲しいものだ。