まや

NOT MEのまやのレビュー・感想・評価

NOT ME(2021年製作のドラマ)
4.8
去年9月に『Theory of Love』を観てOffGunとGun君の沼に落ち、どうやらOffGunの最新作が始まるらしいとの噂を聞き、SNSで撮影風景やらモーメントやらを追っかけながらドラマ放送をリアルタイムで駆け抜けた先月までがもう既に懐かしい……

『NOT ME (เขา...ไม่ใช่ผม)』というタイトルが「双子の兄に成りすまして違法行為集団に潜入する弟」としてのパーソナルな視点と"Not me. Not you. But everyone."という民衆のスローガン=ソーシャルな視点の両方を含意していることが最終話にして明かされる。兄のために復讐を果たそうとする弟の思考の着地点が徐々に対社会に移行していったり、主人公達(ROL)が最終的に対時したものが権力者個人と見せかけてタイの社会構造そのものだったり、彼らを救ったのもまた個人ではなく民衆だったり、コミュニティの連帯エネルギーを良い意味で「信じている」強いドラマだったなと……民衆の力をここまでポジティブに描けるものなのか。権力を持たざる者たちの若さ(稚拙さ)もバランスよく描かれているのでより彼らの勝利にリアリティを感じる。

最終回放送直後にNuchy監督や脚本家が「タイでは社会活動家の失踪、殺害事件が跡を絶たない」とツイートしていたが、それもまた"Not me. Not you. But everyone."の言葉に集約され遠い日本に住む私に投げかけられる。本来ならば制作側によるモーメントや説明はドラマ本編のノイズになりかねないけれど、この作品に関しては「作品として」ではなくもっとメタ的な視点が必要なのかもと。

同クールに放送されていたタイ版花より男子『F4 Thailand』が「現代のタイ社会が抱える埋まらない格差問題」に対する解を「愛」に纏めていたのに対してNOT MEは愛ではなく「民衆の力」という解を用意する。第1話放送当日のGMMライブ配信で主演のGun君が「この作品は正式にはBLではない」と言っていたのも、物語の辿り着く答えが愛(恋愛)ではないことを踏まえると十分納得できる。

双子の兄、双子の弟に加えて「兄のフリをする弟」と「弟のフリをする兄」の実質4役を演じ分けたGun Atthaphan様の凄さは言わずもがな、Off君の演技が素晴らしく新たなOffGunの化学反応に唸ってしまった。これだからBabiiやめられない……OffGun一生ついていきます。

今までかなりの数のタイドラマを鑑賞してきたけれど、何故タイはこんなにも良質なクィアドラマが多いのか……これからも恋愛が主軸ではないタイプのYシリーズが増えていってほしいしこの作品が先駆的存在になればと願っています。(このドラマを観てGun君と監督に興味を持った方には是非『The Blue Hour』をオススメしたい……顕界と幽界の境目が曖昧な、ホラーテイストのクィア映画です)
まや

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