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ボッシュ:受け継がれるもの シーズン1のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

『ボッシュ』シーズン7結末でLA市警を辞職したボッシュ。私立探偵の資格を取り、難事件に挑む。弁護士のハニー・チャンドラーはカール・ロジャースに命を狙われたトラウマに悩む。ボッシュの娘マディは、パトロール警官としての日々を送っていた。

この3人のメインキャラのほかに、スティーブン・チャン演じる韓国系の"メカ担当"が加わっている。

本シリーズで扱われる事件は主に以下の5つ。
1. 金融犯罪を犯したカール・ロジャースがロシアン・マフィアに命を狙われる。チャンドラーがソベル判事の遺族とともにロジャースに民事訴訟を起こす(チャンドラー中心のエピソード)。
2. ホームレス救済に尽力する医師が刺殺される。統合失調症の青年が犯人扱いされ、チャンドラーが銃撃後の弁護初仕事として引き受ける(チャンドラー、ボッシュ中心)。
2. ボッシュの私立探偵としての仕事。億万長者のヴァンスが、父親に命じられて捨てたメキシコ人女性とその子供のその後を知りたいとボッシュに依頼する(ボッシュ中心のエピソード)。このエピソード周りはいちばんハードボイルド小説っぽい。
3. タイ人居住区に現れた白人のレイプ犯をマディが追う(マディ中心)。
4. マディと同期のパトロール警官が撃たれ、瀕死の重傷を負う。LA市警のSIS(Special Investigation Section)が報復のために犯人を罠に嵌め、彼とその恋人を銃殺したのではないかという疑いをチャンドラーが抱き、恋人の遺族のために市警を訴える(マディ、チャンドラー中心)。

1〜5の事件は同時並行的に起こり、有機的に関連しあっているが、すっきりとプロットが頭に入ってくる語りの手際が素晴らしい。

私立探偵となったボッシュは、心なしか刑事のときの悲壮な感じは消え、生き生きとしている。肩の力が抜け、頬も福々しい。シーズン7の眼窩が落ち窪んだくすんだ顔色もよくなっている。自分の母親を殺した犯人を見つけ、警察という窮屈な組織からも解放されたからだろうか。

テーマソングも切迫感のあるものから明るい曲調に代わった。『ボッシュ』の際は、Caught A Ghostの"Can't Let Go"は"I got a feeling that I can’t let go"という歌詞をリフレインしていた。『ボッシュ: レガシー』では、Built By Titan & Skybourneの"Times Are Changing"に代わり、"(Oh, my, my) Times are changing“というフレーズを繰り返している。前者の歌詞はボッシュの母親の事件解決への執念やエレノアへの変わらぬ想いを指していたのだろうが、後者の歌詞は、ボッシュの「新しい人生」(第一話タイトル)やアイデンティティの変化を寿いでいるのだろう。

本シリーズでのボッシュは、法の執行者だった刑事時代からは一転、割とカジュアルに法律を犯すようになっている。不法侵入、身分詐称、脅迫、誘拐、拷問等々、目的のためなら手段を選ばない。白人男性特権を利用して不法侵入時に自分を見つけた黒人の警備員を騙して脅す場面があった。また、チャンドラーが警察の不正を正そうとしてジョージ・フロイド事件に言及したときに、「どうでもいいから(銃撃戦の現場にいた)俺の娘を巻き込むな」と遮る。ボッシュが必ずしも人種差別に敏感ではないことが分かる。

彼が心を寄せるのは、ヴァンスがその存在を知らなかった孫娘と、その14歳の息子である。ボッシュが命をかけて彼らを守るのは、母親と子どもという組み合わせが、12歳で母を殺された彼の出自に訴えかけるものがあるからだろう。

躊躇なく暴力的手段に訴えることへのボッシュの心理的障壁を下げたであろうと思われる出来事が、第9話で回想として差し挟まれる2003年のアフガニスタンでの従軍経験である。死と隣り合わせの戦場シーンを観ると、LA市警での仕事は余裕を持って挑んでいたんだろうな、と思わされる。

ボッシュとエレノアの馴れ初めエピソードも語られる。なんとエレノアは、強盗犯に銃でトドメを刺される寸前のボッシュの命を間一髪で救っていた。これは恋に落ちざるを得ない。

第8話で、ボッシュを演じるタイタス・ウェリヴァーの実の息子がボッシュの青年時代を演じている(驚くほど顔と雰囲気が似ている)。彼を主演にボッシュの青年時代のスピンオフもいいのではないかと思った。ハリウッドでは俳優が自分の子どもをプッシュするネポティズムが批判されているが。

第9話と第10話で、めちゃくちゃカッコいい女暗殺者が出てくる。最終話でのボッシュとの死闘でボッシュの弾が尽きたかと思い油断して首を撃ち抜かれてあっさり死ぬ。事前にホテルで鍛えたり見張りを使って暗殺対象を油断させたりと一流の暗殺者であることを示す描写の積み重ねがある。そのため、彼女がボッシュの拳銃が一挺だけだと思いこんでいたのは、それまでのプロフェッショナリズム描写に合わない。ボッシュ無双をやりたいのは分かるが、もう少し手強い敵を出したらどうか。

シリーズ中初めて、クリフハンガーで終わる。しかもかなり嫌なそれで、これは来シーズンも観ざるを得ない。視聴者を釘付けにしたいのは分かるが、あまり感心しないやり方である。

マディは前シーズンまでの恋人アントニオとはすでに別れており、パトロール組の同期マットといい感じになる。初登場時はまだ中学生だった。どんどん大人の女性になっていくなあ、と思う。
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