まずヒロインキャスティングがおそろしくピッタリ。実在の明日待子(あしたまちこ)と似た顔をした、アイドルグループのメンバーなどが演じていたら、全く違う作品になっただろう。古川琴音という天才肌の憑依型女優だからこそ、田舎娘から箱で会える戦時下のアイドルに変わるさまも、踊りのレビューも含め余すことなく表現できた逸品。「戦場にいるファンにとって私は生きるための力なんかじゃなかった。兵士として死ににいくための支えだった。アイドールはニコニコ笑って頑張って下さいってみんなが笑って死ねるよう背中を押してたんだ。」こういう作品こそ興業映画に仕立ててほしい。
ムーランルージュ新宿座は飯・空気・ムーラン。そして椎名桔平はすっかり悪そうな人が似合う役者になっていた。「この世界で頑張ってない奴なんていないんだ。そんな中でスポットライトを浴びる奴とそうでない奴が居る。それは、ほんの僅かな運を掴み取れるかどうかだ。逃げるな!手を伸ばせ!」、戦後の廃墟のワンカットで明日待子と入れ替わるように登場した少女は美空和枝だったことも粋な演出。