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モダンラブ・東京のnetfilmsのレビュー・感想・評価

モダンラブ・東京(2022年製作のドラマ)
3.8
 ちくわの先端にマヨネーズかけて食えばそりゃ時短だし、タイパ(←使いたいだけ)も良いわ~と思いながら今度本気で真似しようと思った5話目の黒沢清回を早速観てみた。TVディレクターとして働く篠原桃子(永作博美)は男社会を堂々と渡り歩くキャリア・ウーマンで、仕事命の日々を送る孤独な独身者なのだが、部下の男の子を皆の前で𠮟るような女性に恋愛のチャンスはなかなか巡って来ない。要はプライドが高いのだ。対面で誰かとまともなコミュニケーションが取れない桃子は、婚活アプリである日、鈴木洋二(ユースケ・サンタマリア)と出会うのだが、この洋二という男がだいぶイカレている。写真が違うことを指摘されてすぐに席を立ったかと思えば、ガラス張りの外に出て携帯でサイトにクレームを入れる。かと思えばすぐに帰ろうとする。普通ならナダルばりに「やっべーぞ」となるはずの局面だが、桃子は変なおじさんの癖(へき)に何かを感じ取り、すぐさま連絡先を交換した(ユースケ・サンタマリアの電話番号の言い方←)。弟子の濱口竜介の映画に触発され、奇妙な新機軸を打ち出して来たかとと高を括っていたら、16分過ぎに2人が森にキャンプに出掛けるあたりからいつもの黒沢節炸裂で笑った。

 そもそも永作博美とユースケ・サンタマリアは『ドッペルゲンガー』のコンビだし、違う顔を巡るある種のサスペンス的なもので『ドッペルゲンガー』第二章なのだが、森に迷い込んだ2人は方角を見失う。最初に見失ったのは洋二の方で、彼の奇妙な道程に導かれる桃子もまた自分を見失って行く。まるでハンニバル・レクター博士のような太々しさを誇る國村隼と桃子との折り目正しいリバース・ショットは彼女の精神の均衡が崩壊したことを象徴する名場面で(相手の逃げをあらかじめ想定したはずの桃子が同じ質問を2度繰り返してしまう。)、敗北感にまみれた桃子の背中が切ない。この時点で、心底とち狂った黒沢清のこの演出のどこに『モダン・ラブ』があるのかと驚愕してしまうのだが(本人はいたって真面目にモダン・ラブと宣言して憚らないはず)、まぁ壁紙に黄色を選択した時点で、クライマックスの色統一の伏線くらい気付けなければ黒沢好きとは言えないだろう。相変わらず1ショットで全てを物語ってしまう黒沢清の真骨頂は棚がずり落ちるあの狂気の1ショットに凝縮されている。だからこそラストのアレも陶然とした想いで見守ってしまう他ない。ユースケ・サンタマリアはDIY得意な50代の設定なんだろうが、トンカチ持つ手が異様に怖い。その万能な男性像とは程遠い怖さをユースケ・サンタマリアは体現するのだが、その様子は心底とち狂っている。

 続いて2話目の廣木隆一回を観てみる。大学で生物学の教員として働く佐藤加奈(榮倉奈々)は、行きずりの男性とのワンナイト・ラブをただただ繰り返し続ける。だが欲しいのはSEXだけで、面倒くさい恋愛は不要だから相手は妻帯者ばかりを選り好みする。けれどなぜか加奈は行為後の不倫相手たちをことごとく詰問してしまう。彼女はフリーライターの圭介(柄本佑)とセックスレスが元で離婚したばかりなのだが、殆ど圭介への当てつけの様に情事を重ねて行く。廣木隆一は榮倉奈々の戸惑いの先を描写して行く。誰を撮影監督にしても廣木隆一のロケーション選びと構図はダントツで、今回の撮影監督は『さよなら歌舞伎町』や『ノイズ』の鍋島淳裕だが、プラスチックな東京の風景を切り取るのが本当に上手い。隅田川辺りを遊覧する船や江東区木場の新田橋辺りをロケ地とした元旦那との不思議な引力は妙にリアルだ。不倫の恋ばかり選り好みする加奈は自然と同世代かそれより上が増えるものの、圭介は年下を選びたがり、それゆえ束縛に苦しむ。鬼電に出ようとしない彼の姿に別れた女房への微かな情が滲む。隅田川辺りで出会った2人はどちらが先に着くか競争する。本当に2人は別れたのだろうか?その心地良い歩幅は2人の未来に微かな光を灯す。

とりあえずここまで。これ以外の5本は後ほど追記するかもしれません。
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