どらどら

silentのどらどらのレビュー・感想・評価

silent(2022年製作のドラマ)
4.7
断絶と人と人の間に必然的にある距離についての物語
そしてその距離を「埋める」のではなく「繋ぐ」ための祈りのような物語
絶対に分かり合えない他者と分かり合えないまま分かり合うための物語

「共感できない」系の批判は最悪というかこのドラマの何を見てたんだって感じだけど(「共感」することを誰もあなたに求めていない。むしろ「共感」しないままでいることを要求するようなドラマ)、どうしても9話の看護師さんの「大丈夫ですよ」が気になってしまう。
一つの小さなセリフだけど、このドラマの価値全体をひっくり返しかねないくらい不用意なセリフだと思う。それ自体は好意的に解釈すれば紬がバ先の後輩に語る「かわいそう」を巡る部分で回収されているとは思うけど、あのセリフを言った主体の言葉の使い方が間違っていることについての言及はない。
自分の子供に遺伝しないか心配するのは親としてはある意味当然。でも、優生保護法の歴史を考えると、その当然さを当然だとしては僕は受容出来ない。現実にそういう心配があるのをそのまま描くのは現状追認。フィクションがなすべきはそのリライト。
世の中の価値観をリライトしてやろうという意欲作がこれだけ多くの人に受け入れられたこと自体はすごいけど、やっぱりこのドラマもある種の偏見を内面化してしまっていると言わざるを得ないのではないか。それは誰が悪いというわけでもなく、それがこの社会の位置なのかもしれない。

批判の分量が多くなってしまったけど、総じてこのドラマぼくは大好きです。
奈々ちゃん(夏帆)がハンドバック欲しいって言った時泣きました。
奈々ちゃん/春尾先生の回想シーンがこのドラマで一番好きな場面です。
どらどら

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