Koga

THE DAYSのKogaのネタバレレビュー・内容・結末

THE DAYS(2023年製作のドラマ)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ドラマ自体は原発事故の悲惨さ、対応の難しさを臨場感ある表現で示していた。見覚えのある映像には自然と涙が出てきた一方、経過の中には知らなかったものもあった。被災地岩手で中学生だった自分がこの事故を知ったのは、劇中で描かれた数日間が終わり、東北に電気が戻ってきてからだった。そんな自分からすると、時系列で細かく描写してくれたのはありがたかった。同じように、あのときを覚えている人の多くが、建屋爆発の映像を目にして感じた「もうだめなんじゃないか」という恐怖、そして「原発は事故リスクより脱炭素などのメリットが上回る現実的な発電方法だ」という従来の言説への強烈な違和感を、"改めて"喚起させられたのではないか。それだけ迫真の映像の連続だったと感じた。

ただ、事故後の描写の緻密さに比して、事故の原因はむしろ被災以前にあった、という視点は抜け落ちている気がした。「原子力は一度暴走すれば人間に制御できなくなる」ということをを強く意識付けすると同時に、「あの事故は対策を怠った歴代の東電幹部や長年の政策によるもの」という事実も指摘してほしかった。その意味では(門田隆将原作ということもあり)現場の人間の美談として問題を矮小化している感が多分にある。たしかに菅総理の訪問は迷惑で不適切だったろうが、それでメルトダウンしたわけではない。さらに言えば、その責任の対象にはもしかしたら吉田所長も含まれるかもしれない。命がけで対処にあたった人たちへの最大限の敬意を払いつつも、その点に関しては安易な英雄史観に陥らず、冷静に見つめる必要があるだろう。

また、所員の視点に立っていることもあり、脚色なのかあえて政府の調査や公式記録と違う描写になっている部分がいくつかある。淡水海水注入や撤退に関しても、私が知る限りかなり複雑な経緯が省略されている。このドラマを観ただけで、この事故を知ったことにはならない。史実に基づくとはいえ、調査資料にあたりながら考えることの重要性を改めて感じ入らせてくれる作品だったと思う。
Koga

Koga

Kogaさんの鑑賞したドラマ