都部ななみ

三体の都部ななみのレビュー・感想・評価

三体(2023年製作のドラマ)
3.7
原作から再構成された本作は充分に愉快な作品だが、スケール感の再現性の高さに対して単純化された数々の要素は不服。全8話構成のドラマとしてラディカルで多面的な進捗は適切ですが、一方で国家主義的ゆえに個性的な物語が国際化により普遍的な物に脚色されてるのは問題ではないか。

原作は『誰もがこの本を読んでいる』とまで称された、SF作家 劉慈欣による2018年発売の三部作(五冊)から成るSFシリーズで、文化大革命という人類の罪過を切り口として、異星人との接触とそこで生じてしまった摩擦に晒される人類の危機が軸となっている。

今回のNetflixでのドラマ化にあたり複数の改編が加えられているが、作品に対する良し悪しの大半はこれに依存している印象。

主な改変点として、
舞台は中国から英国へ変更され、また本来は主要数人が担う役割を分ける形で五人に分裂させており、各部の主要人物が既に揃い踏みという構造から物語が開始されます。

少なからず人種や性別に偏りが感じられる原作にグローバルな価値観を持ち込み、人間性をより多面的は価値観から深掘りすることで、取っ付きやすいとは言えないハードSFの本作を万人向けに呑み込みやすく再設計しているのは、それはそれで評価すべき点のように思います。

高評価である完璧な1話と激動の5話と比較すると、他6話は分かりやすいカタルシスには欠けるものの、機敏な編集や視覚効果で魅せる画の定期的な明示またクリフハンガーと真相の開示を継続的に怠らない構成は再構成の判断としてはよく出来ており、魅力的な原作の魅力を抽出することで要素の売り出しに成功してもいます。

たとえば頓痴気なVRゲーム:三体の場面は省略がありながらも、人間コンピューターや再水化など視覚的魅力を帯びる場面は適切に映像化されている。映像化の意義という意味では、やはり第5話がハイライトです。ナノ繊維による古筝作戦のヴィジュアルは最高で、人類の功罪の重みを指し示すシークエンスとして恐ろしいほどに優れている。また智子による侵略宣言は、我々がただ知性を得ただけの獣に過ぎないことを思い起こさせる根源的恐怖が伴い、ナノ繊維の場面を踏襲したからこそ 卑近に迫る苛烈な生存競争への恐れとして見事に昇華されています。

かように万人向けのドラマシリーズとしての脚色にはほぼ成功している本作ですが、はたして原作の文化的突出となるとどうでしょうか。

グローバルを持ち込んだ──とは言いますが、原作はそのままに国際的な物語であり、文化大革命と重ねる形で三体星人との対立を描くことで、全体主義的に自国の罪過への精算に(間接的に)臨む物語です。

そうした作品の独自性が凡庸な国際化に上塗りされている点はどうしても否めず、過去と現在を結ぶ歴史群像劇としての精度も無視できない程度に落ちているのではないかと思われます。

革命的なセンス・オブ・ワンダーこそ一定水準以上には感じますが、物語の尺を小規模に調整したことで奥深さはやはり欠けており、5話以降のエピソードはその代償として物語が類型的なメロドラマに侵されているのも問題点の一つです。

普遍的でない物語を普遍的な物語として仕立てる際に零れ落ちてしまう物こそが本作の豊かな点であると感じた身としては不服のある映像化ですが、しかし続編の期待を損ねるほど面白味や洒脱さに欠ける作品だったかと言えばそれは違うように思います。何故なら、どう考えても原作のビジュアル化には、やはり優れているからです。
都部ななみ

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