都部ななみ

フォールアウトの都部ななみのレビュー・感想・評価

フォールアウト(2024年製作のドラマ)
4.4
素晴らしい完成度。混沌と暴力が渦巻く核戦争後の世界を舞台に交差する三者三様の活劇は痛快で、横行する非常識な言動の数々は狂気めいたユーモアがあり、魅力的な人物と世界観により厚みある物語としての見応えは充分。本作は今年最高のドラマの1本に間違いない。

核戦争後。社会秩序が崩壊し、暴力と非倫理が常識として君臨する、そんな22〜23世紀の米国を舞台とする大人気ゲームシリーズ『fallout』。

その初の実写映像化である本作は、
この世界観の妙を初見の人々へ語るに相応しい爆発力のある作劇を展開しており、一方で往年の好事家を唸らせる原作再現の充実度や小粋なイースターエッグなど、原作ありきの作品としての適切な目配せも散見される。ことゲーム作品を原作とする実写化作品としては理想的なバランスを得ていると言ってもいい。

その構造の浅深が取れた筆致は、
主要人物三名による三者三様なストーリーラインの有機的な交差がその要因として強く──初めて世界と対面する者/世界の歪な秩序に身を委ねる者/世界に順応し無法を働く者──その三者の視点により、世界の醜悪な実態が多角的な形で明らかになる様は刺激的で痛快の一言。

(ここで面白いのが、ゲーム特有の”核戦争後の世界をプレイヤーとしてどう生きるのか”という個性が出るロールプレイ。さながらそれを思わせる あるあるな挙動が三人には見られることで、既プレイヤーとしてはこのゲームのプレイ感もまた+αとして楽しい要素としてよくよく感じた)

地上を跋扈する核汚染を受けた危険生物が襲撃し状況を掻き乱す”動”と、身の危険を晒しながら世界の謎に迫り その現実を前にして人間としての感情を零す”静”。それらがシークエンスとして豊かな形で成されていて、この緩急がまた巧みであるため、物語のピリオドまで刺激が刺激としての新鮮味を失わない構成もドラマとして適切である。

この終末世界の映像化するにあたり、
このゲーム特有の非現実的な馬鹿馬鹿しい世界の振る舞い──それはレトロフューチャーの側面であり、酔狂な核戦争後の文化形態でもある──もまた、より現実に近しくする映像化の為だと切り捨てず、映像作品として非現実さを割り切る潔さも好印象だ。破壊の跡が目立つ雑然とした街並みの風景美や改造が施された銃火器が呼び起こすロマンチシズムに従順な作りこそ、この物語に類型的でない独自性を与えているのはたしかだから。

場面場面を見ればその世界観での遊びを感じる脚本ではあるが、それは優れたドラマ性がある故の遊びである。核シェルター:Vaultから飛び出した主人公が、外の世界を知り、世界と自分の真相を知るまでの道程に無駄がなく洒脱と遊戯が両立した進行には間延びがなく良質。原作ゲーム一本分をクリアしたような満足感のある最終回のパンチラインの数々も見事だった。

改めて作品の些細を褒め始めるとキリがない完成度なのだが、やはりその価値は大いにある一作で、本年度の優れたドラマの一本として視聴を推奨したい。以上。
都部ななみ

都部ななみ