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未成年のLのレビュー・感想・評価

未成年(1995年製作のドラマ)
4.5
最初の方は、コンプラとか煩くない頃はドラマってこんなに自由だったんだなあ(高校生が平気でタバコ吸ってるとか、深夜帯でもないのにおっぱい丸出しの風俗のシーンがあるとか、ヤクザとか)って、その自由さが綺麗すぎなくてリアルでいいなあと思って観てた。
けど、デクちゃんが銀行員を撃ってしまったあたりから、なんだかどんどん事態が予想もしないほうに展開していって、どんどん引き込まれた。
大人は、かつて自分たちも未成年だったのに、どうして歳を重ねるごとに子どもたちの抱える苦しみと向き合ってくれなくなるんだろうね。
目の前の生活を守ることでいっぱいいっぱいになってしまって、誰かのためとか人を純粋に愛することとかそういうことを忘れてしまうのかな。

あくまでもデクちゃんのために、逃げることを決めて、深夜の汽車で全員がヒロを迎え入れるシーンがすごくじんときた。
ヒロは出来たお兄さんと比べられて生きてきたことで抱えた苦しみを、
モカは体が弱いことでありふれた人生を送れなくて生きている実感が持てない苦しみを、
ツトムは愛人ができたことで愛情をすべていっぺんに息子に注ぐ母親からの重圧を、
ゴロウは貧しさや勉強ができないことでヤクザのはしくれとかそういう生き方しか出来ないことで社会のはみ出しものとして生きる苦しみを、
カーコは母親になっても男をとっかえひっかえしながら水商売を営み子どものことなど顧みない親への軽蔑を、
みんなそれぞれの苦しみを抱きながらそれでも誰かのためにあろうと必死で生きていて、今の世の中にこんなに純粋に生きる人たちがいるのだろうかと胸を打たれた。
順平はいつまでも順平なのが愛おしい。
逃げてしまったことで仲間への裏切りの後悔と罪悪感があって、居場所を割らないよう必死に黙秘を続けるんだけど、無慈悲な取り調べで体力も眠気も限界で記憶がないって泣くところも順平らしかった。
でもたぶん、あれは口を割らなかったんだよね。ヒロのお父さんの裏切りで、順平はちゃんと友情を守れたんだよね。

お父さん信じてたのにってヒロが泣くところも、みんな捕まってそれでもゴロウの仇やデクを救うため逃げ続けてたけど心細くてモカの声を聞いて子供みたいになってしまうヒロの声も表情も、家に忍び込んでこそ泥みたいに食糧を貪り食う姿も、ぜんぶヒロとして存在していて、壱成くんておじさんになってからしか知らなかったから、
こんなにすごいお芝居をする役者さんだったんだってびっくりした。
しかも調べたらこれ演じてた頃、ちょうど今のわたしと同じくらいの歳だったんだと知ってさらに衝撃。
同じ歳でこんな演技をする人が存在するんだと思うとほんとうに先が見えなくなるな。

モカ役の桜井幸子さん、美しくて儚げでモカにぴったり。素敵だなあ、こんな女性になりたいなあと思った。お肌もきれいだしメイクも服も可愛くてこの頃のファッションにも興味を持ち始めた。

あと、浜崎あゆみさんが女優業もしてたんだってことにびっくり。今のイメージと全然違って、可愛らしくてこちらもまた儚げで弱々しくて可愛かった。

昔のドラマはやることがえぐい。泥の中でいじめられるシーンとかトラックの上で雪に降られながら紐につかまってるシーンとか、撮影が大変そう。
これを越えてきた役者さんたちはそりゃ強い、と思った。


これだけ純粋な愛とか世の中への不条理を嘆く作品を書く野島さんも、すごく純粋な人なんじゃないかと思った。
優しい人こそ損をするようなこの世の中じゃ、とても生き辛いんじゃないかなあと、生意気なことを思ったり。

あと、ヒロがモカのことをあなたって呼ぶのがすき。お前とかアンタとか絶対言わないのが良い。すごくすごく大事に宝物みたいに思ってるのが分かる。
雨の中打ちひしがれるヒロに傘を差し出したモカとのシーンで、
「あなたが濡れちゃうよ」
「いいの。わたしはとても、雨が似合うから」
ってやりとりがあって、そこがすごく素敵。あなたが濡れちゃうよっていうヒロの気持ちも素敵だし、とても雨が似合うからってモカの返しも素敵。

すごく良かった。
コンプラとかうるさくて、今じゃこういうドラマは作れないんだろうけど
今の世の中にこそこういうドラマがもっと沢山あってほしいなあって思う。
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