やはり2024年のTVシリーズはリミテッドシリーズに然るべきナラティヴがある。これも『パチンコ』『将軍』等、近年ハリウッドがアジアに“発見”した物語に連なりながら、アメリカに対する批評性はより痛烈。

めくるめくパク・チャヌク演出が炸裂。『リトル・ドラマー・ガール』よりもずっとケレン味にあふれ、トリッキー。それでいてキャリア史上最大レベルのバジェットをまとめる大作演出の貫禄たるや。

パク・チャヌクの作家的オブセッションとアイデンティティが原作にハマった。チャヌク映画では主人公があらゆるレベルの二律背反に引き裂かれ、ここでは熱演する主演ホア・シュアンデが捻れる。

触発されたダウニーは邪悪な白人役を全て1人で演じる怪演。チャヌクの演出意図に強い演技的好奇心を寄せている。そうそう、こういう役者だったのよ！ラスト3話の監督を務めるミュンデンがチャヌク演出をフォローする好投を見せていたのも覚えておきたい。

E4、主人公はベトナム戦争映画の撮影現場に顧問として参加する。ゲスト監督は『シュガー』のフェルナンド・メイレレス。チャヌクとはまた毛色の異なるケレンで、映画製作の狂騒を描く。E3までは賑やかし感もあったダウニーJr.は父シニアを彷彿とさせる破天荒監督役で本領発揮！

常連チョ・ヨンウクのスコアを仲介に、チャヌクとメイレレスが合流する醍醐味。メイレレスはチャヌク演出に寄せている部分もあるが、同じハリウッドアンダーグラウンドを舞台にしているという意味では『シュガー』の流れを汲む楽しさで、『シティ・オブ・ゴッド』続編にも期待。。

西洋と東洋・資本主義と共産主義
混血児であり二重スパイである主人公は、そのどちらにも帰属する。それ故にイデオロギーは揺らぎ、民族的アイデンティティーは引き裂かれる。唯一信じられるものは幼馴染で契った三銃士の言葉「One for all,all for one」のみ。アメリカ文化がいつも魅力的な一方で、我々を胸を熱くするブロマンスとはそもそも共産主義的だったのだ。

『地獄の黙示録』や『プラトーン』でベトナム戦争の悲惨さを学んだ気になっている我々が、いかにアメリカのフィルタを通して歴史を覗いていたかを思い知らされる。凄まじく切れ味の鋭いドラマだった。

この作品の目玉のひとつが、ひとり四役で白人のメインキャラすべてを演じるロバート・ダウニー・Jr。「欧米人からみたらアジア人みんな同じ顔にみえる」の意趣返しでもあるが、何よりも20世紀まで最も社会的特権を享受していた"白人男性"の象徴を、Mr.トニー・スタークにやらせることの意味のデカさ。先般のアカデミー賞でのアジア人蔑視の一件も含めて皮肉が効きすぎている。

ベトナム側からのベトナム戦争の描写はインパクト大です。同胞なのに思想の違いで争ってしまうのだな〜と、改めて感じました。
対して、ベトナム側から見たアメリカは、憧れとそれを否定する複雑な感情描写だと思いました。
ベトナム中心の第1〜3話でかなり引き寄せられましたが、第4話以後の映画製作エピソードは違和感がありました。