マテ

The Eclipseのマテのレビュー・感想・評価

The Eclipse(2022年製作のドラマ)
5.0
一番好きなタイドラマ。この作品に出会ってから一年経たずに5周した。
推しポイントは、恋愛物語として美しく成立させつつも、その実は社会的に大きな意味を持つ物語を伝えようとしているところ。この社会は、そこに生きる私たちは、悪意なく無意識に“当たり前”の規範意識を押し付けて、何かを踏み躙ってはいないだろうか。
The Eclipse で描かれるのは、例えば、体制による圧力と弾圧。反体制運動をする人々の主張。特権を持つ者と持たざる者の不平等。人権の侵害と尊重。選択肢の有無に関わらず、犯した罪には責任が付随するという残酷なまでの“正しさ”。そして自己を肯定して、他者を受け入れて生きていくこと。主演2人の演技が恐ろしく上手いため、ひたすらボロボロ泣かされてしまう。

この作品を観るたびに、私は祈るような気持ちになる。窮屈な世界でもがき苦しむアックやアーヤンたちに「大丈夫だよ、きっと未来は良くなるから。それを信じて今を耐えてほしい」と伝えたくなる。理不尽な世界を壊そうとする少年たちの手がアックに迫ることを考えて「もうやめてくれ」と叫びたくなる。そして、そんなふうに感じる自身の狡さを突きつけられる。
だって私のそれは、アーヤンが糾弾する“沈黙”に違いない。現状を変えようとせず、声を上げず、自分や人の苦しみを見ないふりして、嵐が過ぎ去ることを待とうとすることだ。理不尽に対し勇気を持って声を上げる人々を、調和を乱すから、誰かを傷つけるからと厭うことだ。それは本当に最悪で、克服しないといけない考え方だと思っているのに、油断するたびに顔を覗かせてくるのだから堪らない。そういう気持ちを常に思い出せてくれるという面でも、私にとって、かけがえのない作品だと思う。この作品が響かなくなったら駄目だと思って生きている。

BL的な面で言えば「お世話する方」「お世話される方」的なパワーバランスが偏らず、限りなく対等なのがいい。それぞれ心に傷を抱えた2人が苦しみ、葛藤しながらも支え合い、相手を懸命に生かしていくさまを描いたこのドラマは、私にとってはこれ以上はないと思うほど理想的な愛情的関係の象徴であり、息が詰まるような展開に反して、不思議と心安らぐコンフォートゾーンでもある。

タイの社会的、教育的事情を知らないとピンとこない面もあるが、知れば知るほど「これはこういうことだったのか…!!」と、絶望に絶望を重ねられるスルメ作品。闇が深いし業が深い。暗いし重いし痛々しい。けれど、だからこそほんの小さな希望や輝きがどこまでも美しく思えてくる。

最近じわりと推されている気がするAJPloyの原点はこの作品でいいのだろうか。本当にいい子で他人思いのワットからサニ先生に対する初恋未満の憧れも可愛らしくて愛おしい。

テラサの字幕が多少微妙なのが本当に残念。主題歌の和訳も、おそらく主語が入れ替わっている部分がある。作品の質を損なうクオリティの字幕は本当に遣る瀬無くて悔しいのだけれど、作品そのものについては本当に大好きで宝物のような存在なので、5.0評価。各エピソードについては、おそらくまた近いうちに再視聴するので、その際に。
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