天行健~革命前夜、風立ちぬ~の36の情報・感想・評価

エピソード36
#36
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tanzi

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必ずやるべきことがひとつある、と言った穆青は林浩瀚の仇を“銃“で討つ。 かつて存清大人に大局を諭されて殺すことを思いとどまったが、すでに彼はそのために我慢する人間ではなくなった。 むしろ、王家洛を叱責したように自ら“江湖の道義“を貫いたのだ。 観ていて、タランティーノの『キルビル』を彷彿とさせるようなそんなシークエンスだった。 一方、蜂起に北洋軍が兵を出さない決定をしたことで鍾海潮の裏切りを許せない淇親王は、とうとう娘婿である彼を葬り去る。 父親の権力への欲望を目の当たりにした烏蘭珊は「誰に嫁ごうが許しはいらない。穆青が私を娶る時も」と言い放った。 怒りのあまり椅子を叩いた淇親王の指から、板指がすり落ちる。拾おうとした彼は結局そうせずに転がった板指を遠くに蹴り飛ばす。 それは「私の指からすり抜けたお前はもう必要ない」という父親からの絶縁であった。 結果は真逆だが、これには名作ドラマ『明蘭』の碁石を思い出さずにはいられない。 死んだ林浩瀚の封印は彼にだけではなかった。 船上で弟子たちが一斉に刺青を見せた時、般若堂首座 呉双宝が継承者に伝えたのは武術ではなく、その精神だったと明らかになったことが胸を打つ。 師伯莫堃が卓不凡に、そして林老が穆青にありし日の自分を重ねたように、そこにたどり着いた人にしか見えないものがある。 今の門三刀もボロボロの王家洛にかつての自分を見たからこそ、彼に対して希望を捨てなかったのだ。 が、すでに死場所を捜していた男には意味のない事だった。 海に沈んでゆく王家洛の手には林安静への指輪と2人の家の鍵。 これでいいのだと満足そうな笑顔を浮かべる彼はそうでしか生きられなかった自らを後悔する気はない。 ひょっとすると彼は大清という帝国の擬人化だったのかもしれないと今は思える。 わずかに残った矜持を守り頑なに非を認めずに、大切な物を失ってもなお自ら変えることができずに滅びゆく運命を選んだ男。 宣統3年5月11日 芒種当日。 蜂起を実現できなかった淇親王が寒々しい大内でたった1人溜息をつき、江南の地ではあの謝先生を従えた袁世凱が釣り糸を垂れている。彼がその場から立つのは、あと数ヶ月のちだ。 ここに来るまでに穆青や王家洛が出会った人達が5月11日芒種の1日をそれまでと変わらずに過ごすなか、鍾海潮の愛人は学生デモの先頭で力の限りその拳を振り上げる。 宣統3年、辛亥の年、西暦1911年12月30日。 穆青は、革命の口火を切った10月10日の武昌蜂起で勝利し清朝から独立を果たした武昌にいた。 烏蘭珊からの電話を受けたのは、すでに全土24省のうち14省が武昌に続いて独立を宣言、翌1912年1月1日に孫文を臨時大総統とする中華民国として臨時政府が発足する直前だ。 香港からの電話は遮断が多く途切れてしまう。 それまで革命の進捗を他人行儀に話していたけど、聞き直す彼女に穆青は 「この国の改革を見られる、君を妻にすることも叶う!」 と最後は希望に満ちた声で簡潔に話す。 そんな日が間近に来ると信じて。 電話を切って晴々とした表情で2人がこちらを見つめている。やがてその映像も古いフィルムのようにモノクロに変わる。 私はこのラストで良かったと思う。 2日後には孫文が臨時政府大統領に就任して新しい国ができる。幕切れはここしかないと。その後も続く中国苦難の歴史はこの時の彼らには知る由もない。 余韻は、同じく革命前夜を扱った映画『孫文の義士団』に似ている。 あれから感傷的なニュアンスを薄めた感じだ。 けれどその時確かにそこで生きた人がいたのだと強く強く感じさせるラストだった。傑作。