阿房門王仁太郎

銭ゲバの阿房門王仁太郎のレビュー・感想・評価

銭ゲバ(2009年製作のドラマ)
4.5
https://min.togetter.com/xtIFnRf
 スタッフやキャストが漫画表現と映像表現の決定的な差を知悉し、ドラマ的な表現で原作の換骨奪胎を果たしそれに勝るとも劣らないレベルに昇華させた幸福な作品だと思う。大変な傑作。
 改めて述べるならば、原作が持つ特異なコマ割の再現としてのアップや反復や傾きの様な象徴的な映像表現の他に、屈折や反射光の様な実写でしか表現できない映像の特異性が原作とドラマの彼我の差を如実に表している気がする。
 原作は蒲郡風太郎個人の苦悩や悪を徹底的に暴く事を目的にしている一方、ドラマは個人ではなく周囲の人間の社会的な交わりを描く。その為、銭ゲバが社会的に、即ち他者や視聴者にとってどのように映るかと言った多面的な想像力を―深層へ飛び下りる勇気の代わりに―駆使させるのだ。
詰りは原作が個人の深層に執着する代わりにドラマは社会的な表層を問として提出するのだが、その明敏な問題意識は我々が金銭と言う体制の魔力によって対話の怠慢をしがちである事実に即している。蓋し、このドラマのテーマは原作の「もっと自分を見つめたまえ」と言ったテーマとは似て非なる「他者を想起したまえ」であるように思える。
 我々の様なオタクはややもするとそれを「浅い」と見做して軽蔑しがちだがそれは重々戒めねばならない態度だろう。確かにドラマのテーマは原作より浅かったかも知れないが、それはそのままそのテーマがありふれている、いつも傍目に置かれている事と同義だ。見えない物を徹底的に洞察しようとする事と、薄っすら見えてる物を改めて見つめる事はどちらも同じ位勇気と労力が要るのだ。このドラマはその社会を見つめる勇気を僕に今一度問うてくれた。そして、同時に自己の深層を洞察する勇気の無さをも暗示するのだ。
駄文失礼
阿房門王仁太郎

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