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ストレンジャー・シングス 未知の世界 シーズン1のDのレビュー・感想・評価

3.8
「僕らの住む世界の裏側に、魔物が住む世界が存在していたら?」というありきたりの設定を、面白く料理したなと思った。
テネットにおけるアルゴリズムとか、インセプションにおける「Inception」とか、もっと身近なもので言えば何だ?「トトロ」とかか。これらの物語の、我々の生きるこの世界から離れたところについての設定でありながら、そしてそれが物語の核になっている、そういうものっていうのは、基本的には細かい設定は「ブラックボックス」にされる。箱の中で何が起こっているかは知らないけど、とにかくそれがあるおかげで核が出てくるというもの。インセプションで「でもそれさ、どうやって夢の中に侵入するのよ」と訊くのは野暮でしょ?「トトロって何なん?」も野暮(トトロは子どもの時にだけあなたに訪れる不思議な出会いだよ)。

このドラマもそうで、Upside Downにいる謎の生物とか、エルの超能力とか、それらの出自とかメカニズムは問うてはいけない。

そのときとっても重要なのは「それらをいかに無視させられるか」だと思う。
インセプションはその点抜群に凄くて、「夢」という我々が日常で触れるテーマに「プロットを理解しようとしなければならない複雑さ」を直接埋め込むことで、映画の中の夢という「夢」に我々を誘うことで、それを問うことすら忘れさせる。我々は夢に支配されるからね。夢の中で定義されたものにしか夢の中では触れられないし考えられない。
このドラマの不思議なところは、別にそういう凄いトリックもないのに、なぜかブラックボックスの所在や出自が気にならないところだと思う。「僕らの住む世界の裏側に、魔物が住む世界が存在していたら?」という、子どもが読む「デルトラクエスト」みたいな本の中のような物語を、実際に無邪気で、幼い中学生に書かせて、走らせて、読ませることで、まるで僕ら鑑賞者もそれくらいの年齢に戻ってるみたいな。中1のときの僕はすごく小さくて、部活のことで頭がいっぱいで、怖くて威圧的な顧問と、そいつに金魚の糞みたいに付き纏ってた太った副顧問にビビりながら、頭を使うことなくひたすら言われたことをやろうと頑張ってた頭の悪いガキだった。そりゃブラックボックスなんか疑うどころか「それは何?おもちゃ箱ですか?」って感じだったと思うから、気になるわけないわな。

そんなわけで、そんなバカなガキの妄想をシリアスなトーンで描いてくれるから、すげえなって。80'sのアメリカの雰囲気もいい感じに描かれてた。Talking HeadsとかClashとかJoy Divisionとか、ルーリードとかの影響を受けたいわゆるポストパンク、ニューウェーブの音楽が、いかにあの時代のインキャの心を救ってたのかということだね。僕が愛してやまないボウイとかもちょうど80'sはブライアンイーノと共作でそっちに流れていた時代かあ。ボウイはいつでも居場所を探し続けるpretentiousなイキリサブカルオタクの味方なんだよ。何年か前の僕みたいな奴のね。最後の最後でその時代のボウイの名曲"Heroes"が流れるんだよ。泣けるんだ。"We can be heroes, just for one day"って、なんの捻りもない歌詞がね。しかも僕の大好きなPeter Gabrielのカバーなの。彼の歌声は本当にtearjerkingってやつで、しゃがれた声が心の痒いところを掻いてくれてるみたい。

あとオインゴボインゴとか、スミスとか、クラッシュもだけど、洋楽ネタはやっぱり良かったね。タイプではないけど。Talking Headsとか、David Byrneはすごいなと思う。Talking HeadsはどのスタジオアルバムよりもStop Making Senseが好きだな。

音楽ネタばかり語り出してるってことは終われというサインなので終わります。
ネタバレしないように書きました。いいドラマでした。
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