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ボクらを見る目のTOTのレビュー・感想・評価

ボクらを見る目(2019年製作のドラマ)
5.0
セントラルパークジョガー事件で人種差別から冤罪となった少年たちの実話ドラマ。
14歳から16歳の罪無き彼らが、ひとりで長時間飲まず食わずの尋問を受け、自白を強要される。
地獄の服役、出所後に待つ無理解、それぞれの苦悩が内臓を抉られる痛さで、Netflix最高視聴回数も納得。
4話構成の1話目から自白強要のシーンがとても恐ろしくて辛い。
5人中4人は少年と成年でふたりの役者が演じるが、ただひとり16歳だった為に成人刑務所に送られたコリー・ワイズは全話をジャレル・ジェロームが演じていて、とりわけ素晴らしかった(ムーンライトの青年ケヴィン役の彼)。
捕まった5人“セントラルパーク・ファイブ”の親の葛藤もまた色濃いけど、中でもマイケル・ケネス・ウィリアムズが痛切。
息子のために良かれと思った一瞬の判断が、一生の後悔に変わる。
『ザ・ナイト・オブ』の演技も最高だったけど、また代表作を作り出してしまった…。
当時のドナルド・トランプ映像が入るけど、彼が事件を受けて作った死刑復活を望む新聞広告も、冤罪確定後の「検察にもっと話を聞けば、なにが事実であるかが分かるだろう」「あの若者たちはいずれも、叩けばホコリの出る身なのだから」って発言も何もかも醜悪。
https://www.esquire.com/jp/news/amp27987254/when-they-see-us-central-park-5-donald-trump/
配信から1〜2週間足らずで、当時NYPDセックス犯罪部の検察官トップとして捜査と訴追を指揮して現在は小説家であるリンダ・フェアスタインが、SNS閉鎖/出版停止処分/チャリティ役員や母校の取締役辞任になったというスピードの早さにも作品の反響が伺えた。
https://www.cubeny.com/catch19-06-2.htm
ドラマを観たら、トーク番組『今、ボクらを見る目』もオススメ。
プロデューサーのオプラ・ウィンフリー司会、エヴァ・デュヴァネイ監督登壇。
前半はキャスト、後半は本人が、ドラマの裏側、気になる真相を話してくれて、ドラマと事件への理解が深まる。
https://t.co/xIbRz4iOlN
配信後に起きたフェアスタイン批判へのデュヴァーネイ監督の言葉が印象的。
「責任を取るのは大事、30年前に5人に対して今のような責任は取られなかった。ただ、この作品の結果が一人の女性を罰することでは悲劇」
「彼女の物語ではない。彼女は古いシステムの一部。こうなるよう、抑制し管理すべく作られたシステム。我々の社会を一つの型にはめ、人々を階級に固定した。利益と政治的優位と権力の為のシステムが国民を利用してる。税金、投票、我々が買う刑務所製商品に頼ってる。国民の無知の上に成り立ってる。」
「これ以上無知ではいられない。ゴールはリンダ・フェアスタインやエリザベス・レデラー、この事件の責任を取るべき関係者じゃない。真のゴールはゴー、アメリカ!一緒にやろう、改革しよう。知らないことは改革できないから私達が見せた。知った今、あなたは何をする?どう改革する?それがゴール」
かつてのセントラルパーク・ファイブ逮捕時と同年齢くらいの少年キャストの話す姿に胸がつまる。
オプラから話を振られるたびにキャストの皆が「ハロー、オプラ」「母が大ファン」ってオプラに敬意を表してから、それぞれが演じた本人への敬意と今回の作品での経験を誇らしげに語るのもめちゃいい。
コリーを少年時代から大人まで演じたあなたの演技に内臓を鷲掴みにされたって賞賛されて、泣きそうになるジャレルに私も泣きそうになった。
まずは2ヶ月間ボイスコーチについてコリーのように話す練習から始めたというジャレルは、彼と何時間もハーレムを歩いたとも。
「視聴者でさえ重さや痛み怒りを感じる。独房の冷たい床で来る日も来る日も孤独なコリーを想った。僕は彼の体験を表現するため3ヶ月過ごしただけ。彼は12年間だ。独房に。」
父親が息子の力になれずに感じる心の穴を演じたとオプラも賞賛する、アントロンの父ボビー役マイケル・ケネス・ウィリアムズ。
ジョガー事件当時NYの母子家庭に育ち、自身もワイルディング被害で死にかけ、顔に傷が残り、トラウマを負った。
5人と仲間に思われぬよう服装を変えたという彼の言葉がリアルだ。
ボビーの妻本人と話し、彼を掘り下げようと思ったというマイケル ・ケネス・ウィリアムズ。
「責任や愛が欠けていたんじゃない。“男が家庭を守り養えなかったら、男ではない”という言葉がある。自分が利用された、息子を陥れた張本人だと気づいた時。彼は、罪悪感、怒り、失意、屈辱を感じたのだろう。」
トーク後半は本人たちが登場。父ボビーと和解したのかという質問へのアントロンの言葉が重く、辛い。
「僕には6人子供がいる。息子にそんなことをするのは考えられない。彼は警察が僕をズタズタにして胸を突き刺すのを許した」
観客席で話を聞くジャレルはじめキャストの皆も咽び泣いて、私も泣いた。
って感じでドラマもトークも泣きまくり。
必見です。
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