Lilie

さよならロビンソンクルーソーのLilieのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

★全体的に途中までは具体的なセリフやエピソードには触れないようにしてますが、どうしても内容に触れるところもあるし、一番最後だけセリフのネタバレしてます。

 第22回フジテレビヤングシナリオ大賞受賞作で、野木亜紀子脚本。2010年ドラマ化。
野木亜紀子さんは最近では「罪の声」「MIU404」、「ナギサさん」「逃げ恥」、田中圭ファンとしては「図書館戦争シリーズ」「獣になれない私たち」などがすぐ思い浮かぶ、いまや日本を代表する脚本家さんだ。
その才能を見つけたんだから、審査員さんたちもすごいし、彼女の文章力、構成力、創造力もすごい。 

なお、タイトルはシナリオの載っていた雑誌によると、審査員もなんでこのタイトル?といってたそうだ
が、「さようなら、ロビンソン・クルーソー」というSFが存在する。
詳細はこちら
http://www.tsogen.co.jp/sp/isbn/9784488673062
こっちはSFだし、「さようなら」なので偶然なのか?昔野木さんが読んだことがあるのか?そんなことを思うのも面白い。
まあクルーソーを連想させるシーンはあるから、実際の由来はそこかな。

本作はディスク化されていないのが残念。ほかの受賞作と一緒にディスク化しませんか…。


菊地凛子は体当たり演技が強い印象。特に「バベル」(2006年)でろう者役やった印象が私には強い(自分がろう者なので)

その菊地凛子と田中圭…(ちなみに自分は田中圭ファン)
どんなドラマだろうとワクワクして見た。
さらに綾野剛や鈴之助も出ていてその若きビジュアルにびっくりする。

私は聞こえないので字幕がないと内容がわからない。今回ご好意で録画を見せていただいたのだが、字幕がない(本放送も深夜枠なのであったのかどうか?)。そこでシナリオ(月刊ドラマ,2011年1月号,映人社)が載った雑誌を手に入れて、にらめっこしながら視聴(シナリオのこと教えていただいた方に深謝!)。

野木さんもnoteでかいておられたが、受賞作から時間内におさめるためカットしたシーンがあるそうで確かに見比べるとかなりある。数えると16シーンくらい(数えるわたしは暇人?)。なかにはほのぼのしていたシーンや田中圭ファンとしてはカットが残念なシーンも(苦笑)
追加されたセリフやシーン、カットされたセリフももちろんある。ぎゃくに表現がやさしくなったところもある。

あと、特に終盤、慶介と美也のシーンで伝え方が変わったと思われるシーンがある。見たとき、聞こえない私でも違和感を覚え、自分がなぜ違和感を感じるかわからなかったけど、あとでそのシーンのセリフはこう変わってリフレインしてるんだよと教えてもらい、合点がいったものだ。ここで違和感を感じる人は少なからずいるみたいで。ホラーとすら言われるらしく。強調には野木さんご本人もびっくりしたみたい。(note参照)
映像化というのは難しいものだ。

ここまでは具体的なセリフやエピソードにはできるだけ触れないようにネタバレしないようにして書きましたが、どうしても内容に触れるので、未見の方はご注意ください。

全体的な印象としては、涙が綺麗。
白が印象的。
白いモビール。
教会の白い十字架。
平和の象徴なはずのクレジットカードの鳩。

主人公二人の表情が秀逸。

一言でいえば優しすぎる人たちの物語。
悪くいえば?共依存のひとたちの物語。

田中圭もそうだけど、菊地凛子も自分をよく見せようというような役の生き方はしない。
生身の人間がそこにいる。
剥き出しの想い。感情。

この二人だからこそだせた世界観。
涙はひたすら美しい。

お互いの恋人に貢ぎ、励まし合う二人の愛情の深さ
人を愛し続けることの難しさ
愛した分だけ愛されたいと言う想い
他人は所詮他人なので、自分の想いが伝わらない、叶わないこともある
そんななかで私たちは自分の想いが伝わってほしいとあがくんだ
二人もそれはどこかでわかっていて、特殊な方法でお互いを励まし合っている

長いニットのマフラーを巻いて自転車に乗り、黙々と働く若き田中圭 

もうそれだけでなんか胸いっぱい(笑)

わたしは聞こえないけどナレーショ多く、きっと落ち着いた声だろうな。

終始物憂げで優しげで、ほぼ感情を爆発させた表情はない。心からの大笑いというのもない。
唯一ピースしてるシーンは可愛い!というか、年相応の笑みをみせる。

ベッドシーンはほんとに求め合ってて、ドキドキしちゃう(苦笑)息遣い伝わる。

終盤、とても観ていられないシーンがある。人によっては卒倒しそうな。田中圭はそこを生き切った。

そのあとは失われたものはあるけれど、前半のどうしようもない息苦しさを打ち消すかのように世界があたたかく、やさしくなる。
悪い夢が覚めたように。

見終わったとき、心の中が透き通って、愛するってなに?
なんて思ったりする。

2020年の田中圭主演のドラマでも「先生を消す方程式。」
セリフに「愛することを知った人間は臆病になれる、弱さや寂しさを知る。だから人に優しくなれる」とあったけれど。

この愛はなんなんだろう。
自分が傷ついても人は愛さずにはいられないんだ。
ときにそれは相手にとっていいことなのか。共依存で害でしかないときもある。
それでも。
こんなにも人を愛せる、ということは結構難しいから。それがどんなに辛い結果に終わっても、それはその人を変化させる。ラストの慶介も変化を予想させる。

ドラマの中でロビンソン・クルーソーという言葉は使われないんだけど、ある象徴として使われる。
わたし思うんだけど、恋人だけや家族だけならうまくいくのに、社会と関わるとうまくいかないことがある。でも稼がねば生きていけないし。勉強もしなくちゃだし。
難しいなぁ。
2人きりでいたいけどそれはダメなんだ。外との関わりをもったとたん、それは歪みだす。でもそれから逃げちゃだめなんだ。

愛の形に正解はない。何通りもある。
見返りを求める愛もある。
求めない愛もある。
野木さんは似て見えて、対称的な愛を示していたと思う。
手の表現がとても印象的。まるで詩のよう。
最後の慶介ナレーションに(ちなみにここもシナリオから加筆されてるらしい)、切なくなり、そっと涙し、どうか、破滅に向かわないで。幸せになってほしいと願うんだ。

野木亜紀子さんのnote

https://note.com/nog_ak/n/n265ff043de98

★ここから思いっきり作中のセリフ載せます★







とても素敵だなと思った「手」のモノローグなど。

「『今日はやだ』が何回続いたって、僕は幸せだ。この日々を守る。僕の手はそのためにある」

「僕たちの両手は小さくて、いつだって精一杯だ」

「もっと大きい手が欲しい。愛する人を助ける強い大きな手が」

「ぼくもよく考えていた、同じことを。
どこか遠い場所、美也と2人、何の心配も要らない、幸せな場所」
「でも、人の口から聞くと、なんだか子供じみた幻みたいに思えた」

「でもねハナさん。そこは遠すぎて僕たちの手じゃ辿りつけない」(ここは放送ではカットかな?)

「僕にはまだわからない。何が正しいのか、何が愛なのか。でも、もしも、もしまた誰かを好きになれたら」(ぼくは無人島にはいきたくないな)

「僕らの手は小さくて、いつだって精一杯だ。だから一緒にいきていく。手を取り合って、この世界で」
Lilie

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