空化

セックス・エデュケーション シーズン4の空化のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

ラストのシーズン4まで見ました。
本当に最後までずっと面白い、凄いドラマだった。
性セラピストを母親に持つ主人公オーティスが、学校で悪名高いメイヴに目を付けられて校内で密かに性セラピーを開設するも学園の性事情は想像以上にただれていて……

最初は思春期が抱える性の悩み、性との向き合い方と対峙することが多かったが話を重ねるごとに大人の性問題、障碍・家庭環境・人種・性自認・性的指向・宗教・高齢出産などあらゆるマイノリティの問題が出てきて興味深かった。
物語を通してマイノリティが抱える問題の根深さ(勿論マイノリティが抱える問題について理解した訳ではない)がいかに深刻かがよく分かる。
主人公らは物語の中で様々な性セラピーを行うが、視聴者である私も物語を通して性セラピー(SEX EDUCATION)されていた。
本当に教育ドラマとして良いドラマだった。

finalシーズンは毎回が怒涛の展開でまさに「目まぐるしい」
ある場面を映したと思ったら5分足らずで次の場所へ、そして5分足らずで次の場所へ……
そうしていると物語のあらゆるところで問題が頻出した。
それが「見にくい」「分かりにくい」とか展開に悪影響を及ぼさなかったのは制作陣の手腕なのか。凄かった。
ただ、シーズン3までは深く掘られていた問題が「アッサリ解決」のような展開になっていたのは勿体なさを感じた。
特にエリックの教会での独白。
敬虔なクリスチャンの家庭に生まれたアフリカ系イギリス人のエリックは、ゲイであることを理由に「洗礼」を受けることを避け続けていた。
しかし道路の中央に聖書が落ちていたり、夢で見たイエス・キリストとの物語がそのまま現実で起きたりとまさに神から「洗礼を受けよ(神からの啓示を受け取れ)」と言われていた。
そうして洗礼する決意をいよいよ固めるエリックだが、ゲイであることが「罪」であり、これまで重ねてきた思い出が「過ち」「恥ずべき行為」であることになることをまざまざと見せつけられ翻意する。
敬虔なクリスチャンが集っている教会でステージに立ち、ゲイであることを告白する。

私(エリック)は誇り高いゲイ、それと同時にこのコミュニティ(教会・シェルター・共同体)を愛している。
今この時、真実を隠し通す痛みに耐えるか、この共同体を失うか迫られている。
辛抱強く耐え続けろと言われてきたがもう耐えきれない。
自分を愛しているから隠し続けたくない。
ゲイである自分を愛してくれるなら洗礼を受けよう。
そうでなければコミュニティを去ろう。

もう書いてて泣く。
エリックが大勢の敬虔なクリスチャンの前で、自分が「誇り高いゲイ(proud of gay man)」と宣言する恐怖と勇気、長い間耐え続けていたエリックの痛みを思うと私の胸まで張り裂けそうだった。
結局エリックは家族以外に愛を示されず、コミュニティを去る決意を固める。
ゲイであるがゆえに、愛しているコミュニティ(宗教・共同体)を捨てなければいけない悲愴感。
だがエリックは再び神の啓示と出会い「自分じゃないモノにはなれない!!」と叫ぶ。
しかしその言葉こそが神が求めていたものだった。
「私は皆を愛していると。それを広く伝えなさい」
これまで罪や恥ずべき行為とされてきた行為を行っていても皆を広く愛している。
そう言って神はエリックから姿を消す。
人間がいくらマイノリティに寛容になっても、宗教がそれを許さないときどう向き合うか。
宗教と身近な生活を送っていない私なので本当に外野からの意見となるが、信じる者を救う宗教が信じるものを攻撃する「教え」になっている矛盾と向き合う時だと見せつけた。

似たような事象で記憶に新しいのは、天下の奇祭と呼ばれ1200年以上の伝統がある「国府宮はだか祭」に2024年から初めて女性が参加するとのニュース。
「時代だから」「祭りを次の世代に繋げていくため」決して前向きな理由でなくても、意見を受けて歴史ある伝統を変えて新たな伝統を作っていこうとする決意はすごいなと思った。

今回の祭と宗教に繋がるのは「主催者の決断」だと思う。
これまで積み上げられてきた伝統を打ち破る恐怖、自身の価値観の再構築を迫られる大きな決断。
結局その決断を、エリックの通っていた教会の神父は「話し合いから始めたい」と最終的に申し出た(エリックが「話し合いじゃ改善しない」と一刀両断していたのが良かった)
話を大分戻して、SEX EDUCATIONならもっと宗教や神父の苦悩を描けたと思うのに「アッサリ解決」してしまって非常にもったいなく感じた。
お前らならもっとうまく出来ただろう……?!

あと最後に「愛」がキャラクター達を包んでいたのシンプルに滅茶苦茶泣けた。
これまでセラピーとして自分と向き合うことや、正しい知識を得て行動することを求めてきた物語だったが、最後は「愛」だった。
今はすぐに解決しない問題がある、でもその問題に寄り添って「愛」を持っていられることで、その人をどれ程安心させて癒すか。
長い時間をかけて沢山のことを教えてくれたSEX EDUCATIONが最後に「愛」を教えてくれるのすごい。どんな解決策があっても、私たちは「愛」を持つべきだと。
その対象は親友であり、親子であり、家族であり、姉妹であり、自分であり……
本当に良い物語だった。終わるのがもったいないよ~~~
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