篠村友輝哉

マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~の篠村友輝哉のレビュー・感想・評価

4.5
傷を知っている人こそが、傷ついた人に寄り添う優しさを持っている。ほんとうに誰かを救うことは、自分自身を救うことでもある。ジアン(イ・ジウン)の切なさとドンフン(イ・ソンギュン)の優しさに毎話心動かされながら、その主題に非常に共感した。終盤は、観ているあいだじゅうほぼずっと、胸があたたかいもので満ちていた。
何より俳優陣が見事だったが、人生にたいするやり場のない諦めを表情から全身にまで漂わせたイ・ソンギュン、絶妙のニュアンスと声で発せられる少ない台詞と、繊細な表情と仕草で心情のゆらぎを表現したイ・ジウン、主演の両者がやはり素晴らしかった。
作品の全16話の時間を通して、舞台となる「後渓」という場所を、実在するような「空間」として成立させている点も特筆すべきで、これにより、登場人物たちも実在感を増し、かれらにたいする感情移入も自然に促される。
「正しさ」の観点から見れば一切問題がないわけではないだろうし、いつまでもああいった出会いに恵まれない人はどうするのかというような批判もあるだろう。けれども、ここに込められた、ため息をつきながらなんとか人生を生きている人へのあたたかい「ファイティン」には、真にかれらに寄り添おうとする真摯さが感じられた。虚構の力を信じるなら、この作品自体が、現実が満たしてくれないものを埋めてくれるはずだ言うべきだろうか。
篠村友輝哉

篠村友輝哉